著者
中西 京子 大崎 能伸 中尾 祥子 徳差 良彦 三代川 斉之 菊池 健次郎
出版者
特定非営利活動法人 日本肺癌学会
雑誌
肺癌 (ISSN:03869628)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.55-59, 2002-02-20 (Released:2011-08-10)
参考文献数
14
被引用文献数
2 3

背景. 悪性腫瘍の自然退縮はまれな現象で, 原発性肺癌での報告は極めて少数である. 我々は, 自然縮小した肺小細胞癌の1例を経験したので報告する. 症例.65歳, 男性. 呼吸困難を主訴に前医を受診した. 胸部異常陰影を認め精査のため当科に紹介された. 胸部X線写真と胸部CTにて右S6の結節影と右肺門の腫瘤陰影を認めた. 経気管支擦過細胞診では悪性細胞を認めなかった. 臨床経過より悪性腫瘍を疑いCTガイド下で経皮的穿刺吸引細胞診を施行し, 肺小細胞癌と診断した. 放射線治療同時併用化学療法を予定し, 全身検索を行っていたところ4週間前の胸部X線写真, 6週間前の胸部CT写真と比較して, 結節影と肺門部腫瘤はともに縮小していた. 腫瘤縮小時の血液検査ではNK細胞活性が高値であった. 肺小細胞癌としては非定型的な経過のため本人の同意を得て右S6の結節影の胸腔鏡下生検を施行し, 病理組織学的にも肺小細胞癌と診断した. その後, 右肺門部リンパ節の増大を認めたため, 放射線治療同時併用化学療法を施行した. 縮小率は75%であり, 効果は有効であった. 現在も再発の徴候なく外来で経過観察中である.結論.悪性腫瘍の自然退縮の機序は未だ明らかではない. 本症例では, 宿主の免疫能, 穿刺検査や放射線の影響など様々な要因が重複し肺小細胞癌が自然に縮小したと考えられる. 悪性腫瘍の自然退縮例の機序の詳細な解析が今後の癌治療または予防の手がかりとなる可能性もあり得る.