著者
徳永 文稔 小出 武比古
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

新生蛋白質が正しい折れたたみを受けることは、蛋白質の正常な機能発現のために必須である。折れたたみ異常(ミスフォールド)蛋白質が分泌されると生体にとって有害になるので、これらは分泌前に識別され、小胞体内腔からサイトゾルへ逆行輸送したのちにプロテアソーム分解される。この細胞機構は小胞体関連分解(endoplasmic reticulum-associated degradation、ERAD)と呼ばれる。我々は、各種ミスフォールド蛋白質のERAD機構を解析し、小胞体マンノシダーゼIによるN型糖鎖のプロセシングがERADに重要であることを明らかにしている。本研究で我々は、東京都臨床研の吉田らによって発見された糖蛋白質に会合する新規ユビキチンリガーゼSCF^<Fbx2>(Skp1-Cu11-Fbx)複合体のERADにおける役割を解析した。その結果、Skp1との結合部位であるF-box領域を欠く変異体(Fbx2ΔF)は、優性ネガティブ変異体として働き、典型的なERAD基質蛋白質であるのう胞症繊維症のCFTRΔ508Phe欠失変異体やT細胞受容体α鎖のERADを抑制することを見いだした。さらに、CFTRΔ508Phe欠失変異体はプロテアソーム活性抑制時にアグリソームと呼ばれる核近傍セントロソーム部位に凝集体を形成することが知られているが、正常型Fbx2を共発現するとCFTRΔ508Pheのアグリソーム形成率が減少することが分かった。一方、Fbx2の欠失変異体はアグリソーム形成の抑制効果はなかった。これらの結果から、Fbx2は小胞体型のN型糖鎖をもつ蛋白質がサイトゾルに暴露された際にこれらの蛋白質を折れたたみ異常と認識し、ユビキチン・プロテアソーム分解に導くユビキチンリガーゼであることが示された。
著者
徳永 文稔 小出 武比古
出版者
姫路工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

我々は、抗血栓薬ワルファリン投与時に生合成されたビタミンK依存性凝固因子は、分泌されず細胞内で分解されることを示したが、これは薬物誘導による小胞体分解の唯一の例である。本研究ではこのモデル系を用い、平成8年度には、ワルファリン下の細胞内プロテインCは、GRP94、GRP78(BiP)、カルレティキュリンなどの小胞体内シャペロンと会合していることをDSP架橋を用いて明らかにした。また、ワルファリン下プロテインCの細胞内分解は、ラクタシスチンやZ-Leu-Leu-Leu-Hなどのプロテアソーム阻害剤により阻止されつことから、最終的に小胞体内から細胞質へ逆行輸送され、プロテアソームにより分解される可能性が示された。平成9年度においては、ビタミンK依存性因子においてワルファリン投与時に速やかに分解されるプロテインCと比較的緩やかに減少するプロトロンビンをモデルに、γ-カルボキシル化と小胞体分解の感受性を調べた。内在的にこれら因子を産生するHepG2細胞では、ワルファリン下のプロテインCはほとんど分泌されず顕著な細胞内分解を受けたが、プロトロンビンはワルファリン下でも約50%が分泌した。そこで、プロトロンビンのGlaドメインをプロテインCのものと置換したキメラ(GDll/PC)とプロトロンビンのプレプロ配列からGlaドメインまでをプロテインCのそれと置換したキメラ(PPGDll/PC)を作製し、BHK細胞を用いてワルファリン感受性を調べた。その結果、意外なことに両キメラはビタミンK下でγ-カルボキシル化は正常であるにも拘わらず分泌せず細胞内分解を受けた。以上の結果は、Glaドメインとその周辺領域との相互作用も小胞体分解の要因であることを示している。