著者
志柿 光弘
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

本研究では米国との関係におけるプエルトリコ、日本との関係における沖縄という二つの事例について、「一定の地理空間を歴史・言語・文化的な同質性の基盤として有するが、独自の主権国家を形成することはせず、歴史・言語・文化的同質性の範囲を越えたより大きな主権国家内にとどまり、あるいは統合されることを選択している人間集団が構成する政治単位」としての「国家内地域」という概念を措定し、これを上記の事例に適用し、その有効性の検証を試みた。プエルトリコについては、地理的空間を基盤に持っていること、アメリカ合衆国とは明らかに異なる歴史的・言語的・文化的特性を有していること、しかし、分離独立を支持する住民は少数であり、アメリカ合衆国の主権下に止まることを住民は望んでいることから、「国家内地域」概念が有効性を持つと考えられる。また、沖縄については、地理的空間を基盤にしており、日本本土とは異なる歴史的・言語的・文化的特性を有しているが、明治維新以来の同化政策の結果、その差異はプエルトリコの場合ほどには顕著とは言えない。しかし、分離独立の可能性は持っており、「国家内地域」概念の適用は可能である。何れの事例についても、「民族」や「エスニック集団」という概念では、現状を十分に説明できないが、「国家内地域」概念を導入することによって、より客観的で冷静な理解が可能となる。