著者
志水 義房 渡辺 真珠
出版者
信州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

高濃度カリウム培養液が培養初期の脊髓神経節細胞の生存率を著しく上昇させることが報告されている. しかし, その他の種類の神経細胞についての報告, ならびに長期培養による発育分化に対する影響についての報告は殆んど見られない. そこで本研究ではニワトリ胚の脊髓神経節と交感神経節, ならびに脊髓の神経細胞を培養し, 高濃度カリウムの効果について検討を加え次のような結果を得た.1.高濃度カリウム培養液は脊髓神経節のみならず, 交感神経節の神経細胞の生存率を著しく上昇させた. しかし, 脊髓の神経細胞の生存率の上昇は見られなかった.2.高濃度カリウム培養液は脊髓神経節細胞の分化を抑制した. 交感神経節細胞ではコリン作動性への転換を抑制し, アドレナリン作動性を保持した.3.上記2.の効果はカルシウム拮抗薬であるマグネシウム, ジルチアゼムで抑制されたので, カルシウムが関与しているものと考えられる.4.対照培養液下で交感神経節細胞を脊髓と併置して培養した場合にも, 交感神経節細胞のアドレナリン作動性が保持されることが判明した.5.高濃度カリウム培養液下では脊髓神経節と交感神経節の神経細胞の生存率が上昇するので, これまで困難であった培養初期の遊離単独神経細胞の動態を微速度映画に撮影して分析することが容易となった.6.分離培養脊髓神経節細胞に細胞内可溶性蛋白を除去後, 急速凍結・ディープエッチング法の適用を試みた結果, 細胞骨格, 細胞小器官の三次元的微細構造を詳細に観察することが可能となった. 高濃度カリウム培養液下では微小管とニューロフィラメントによる束状構造が著明となり, 小胞体から多数の輸送小胞が形成されている像が観察され, 細胞内活動の増加を示唆する所見が得られた.