著者
応用地質研究会ヒ素汚染研究グループ 宮崎大学地下水ヒ素汚染研究グループ
出版者
地学団体研究会
雑誌
地球科学 (ISSN:03666611)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.105-126, 2000-03-25 (Released:2017-07-14)
被引用文献数
4

1996年以来,インド西ベンガル州とバングラデシュで重大な健康被害をもたらしている,地下水ヒ素汚染について,アジア砒素ネットワーク(AAN)と応用地質研究会ヒ素汚染研究グループ(RGAG)は,バングラデシュのシャムタ村をパイロット地区として活動してきた.地下水調査ではAANと宮崎大学は,地下水のヒ素濃度と水質を民家所有井戸について主に調査した.RGAGはヒ素汚染解明のため,1998年からコア分析を含む水文地質調査と地下水モニタリングを行ってきた.AANの調査では,地下水中のヒ素濃度として,村の南部で0.05mg/l以上,北部でそれ以下の値を得た.シャムタ村は,ガンジスデルタに位置するため,標高海抜約5〜7mであり,自然堤防と後背湿地からなる.既存資料や調査結果から深度約200mまでの地質は,下位より下部砂質層,下部泥質層,上部砂質層,上部泥質層,最上部砂質層,および最上部泥質層であり,下部砂質層は,第二帯水層,上部砂質層は,第一帯水層に区分される.第一帯水層は,ヒ素に汚染されているが,公衆衛生工学局(DPHE)で使用している深井戸は,第二帯水層に含まれ,第一帯水層ほどヒ素には汚染されていない.地下水位変動では,第一帯水層は漏水系帯水層の特徴を示し,農業用井戸による第一帯水層の垂直的な漏水が引き起こされている.地層中のヒ素含有量は,上部泥質層で高く,とくにピート層が非常に高い.第一帯水層の地下水ヒ素濃度は,シャム夕村の南部で高く,北東部で低い.民間所有井戸では,1997年10月の雨季が,1997年3月や1998年5月の乾季にくらべ地下水ヒ素濃度が高い.観測井では,深度が浅いほどヒ素濃度が高く,深いほど低い.第一帯水層での平面的な地下水流動とヒ素濃度とはさほど相関しない.季節的な差異もヒ素濃度との良い相関を示さない.水文地質的な観点からの地下水ヒ素汚染に関係する要因としては,次の点があげられる.(1)上部泥質層とピート層中のヒ素含有量(2)上部泥質層の層厚(3)農業用での地下水利用による垂直的な地下水流動