著者
成家 克徳
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.392-405, 1991-03-31 (Released:2009-10-19)
参考文献数
25

本論文の課題は、現代の国際労働力移動を理解するための基礎的な概念枠組みを設定することにある。第二次世界大戦後、アジア、ラテンアメリカ等の第三世界から多数のヒトが先進国、産油国へ移民労働者として出国している。従来の枠組み (プッシュ=プル理論) では、第三世界と先進国との間にある格差 (賃金、就業機会等) が過大評価されてきた。この理論を批判し、(1)世界経済の無国境化 (borderless economy) という “構造” 転換モデル、 (2) トランスナショナル・アクターとしての民族集団 (ethnic groups) という “主体” モデルを提示する。前者において、先進国の直接投資は、第三世界の輸出向け工業化 (あるいは農業化) を促進したが、同時に潜在的な移民候補者をも生み出したと述べる。また国際労働力移動は世界的規模での労働市場の一体化であると指摘する。後者においては、前者のモデルの問題点 (i・eシステム決定論) を指摘し、相互補完的観点を導入する。とりわけ第三世界側のダイナミズムを強調する。それに加えて (1) と (2) の観点を総合し、国境横断的な民族の発展という視点をうちだす。