著者
成相 裕子
出版者
島根大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

動脈硬化の発症あるいはその経過に深く関連する血管平滑筋細胞の増殖は、粥状動脈硬化巣(プラーク)の形成における重要な因子の一つである。PDGFはプラーク形成部位の活性化されたマクロファージ、平滑筋細胞、内皮細胞、あるいは血小板より産生放出され、血管平滑筋細胞の内膜への遊走、増殖を促進し、その結果内膜肥厚を引き起こし、動脈硬化症を引き起こすと考えられている。エピガロカテキンガレート(EGCG)は緑茶に含まれるポリフェノールで、近年、心臓疾患を引き起こす動脈硬化の発症の抑制や高血圧予防、体脂肪燃焼作用について効果があると研究されている。我々は培養ラット血管平滑筋細胞(A7r5 cell)をEGCG2時間前処理の条件下でPDGF刺激すると、PDGFによって誘導されるERK1/2、MEK1、AktがEGCG存在下では著しく減少し、PDGF-βレセプターのリン酸化は濃度依存的に減少すること、初期応答遺伝子c-fos,c-junの発現も抑制されることを明らかにした。従って、A7r5細胞株を用いEGCGによる細胞増殖抑制効果が、リガンド、受容体、または両者への作用によって引き起こされるかを分子レベルで明らかにすることを目的とし、1.EGCGのPDGF刺激によるERK1/2、MEK1のリン酸化に及ぼす効果、2.EGCGの増殖に関与する極初期遺伝子の発現に及ぼす効果、3.EGCGのPDGF刺激によ.るPDGFβ-受容体のリン酸化に及ぼす効果、4.EGCGのPDGF刺激によるAktのリン酸化に及ぼす効果、5.EGCGのPDGF刺激による細胞増殖に及ぼす効果について検討を行った。その結果、EGCGはPDGFシグナル伝達経路の鍵となる分子であるPDGFβ-受容体、ERK1/2、MEK1、Aktのリン酸化を有意に抑制し、さらに極初期遺伝子c-fos,c-junの発現を減少させ、細胞増殖を有意に抑制した。これらの結果は、EGCGが動脈硬化症の憎悪因子と考えられている血管平滑筋細胞の増殖を抑制する分子機構を明らかにし、動脈硬化やそれに基づく心血管疾患に対するEGCGの有用性を示すものである。