著者
戸川 成弘
出版者
富山大学経済学部
雑誌
富山大学紀要. 富大経済論集 (ISSN:02863642)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.81-103, 1994-07

株式会社の定款に株式の譲渡につき取締役会の承認を要する旨の定めがある場合(商204条1項但書)に,取締役会の承認を得ないでなされた株式の譲渡は,会社に対する関係では効力が生じない,と解されており,後述する一部の学説1)を除いては,この点について異論を唱える学説はない。それでは,この場合に当該株式の譲渡人(株主名簿上の株主。以下同じ)はいかなる法的地位を有することになるのであろうか。すなわち,当該譲渡人は会社に対して株主としての地位を主張しうるのであろうか。取締役会の承認のない譲渡制限株式の譲渡をめぐる従来の学説の議論は,譲渡の当事者聞において譲渡の効力が生ずるか否かについての議論が中心であった。それに対し,この譲渡人の法的地位の問題は,この問題について最高裁判所が初めて判断を示した最高裁昭和63年3月15日判決2)以後論点として意識され,議論が行われるようになったものであり,比較的新しい問題であるといえる。本稿は,この問題について前稿後の議論を踏まえて再検討を加え,前稿の結論の論拠を補強するとともに,その作業の過程で,前稿では必ずしも明確にしていなかった筆者の考える相対説の見解を示すことにする。