- 著者
-
戸田 幹人
- 出版者
- 京都大学
- 雑誌
- 重点領域研究
- 巻号頁・発行日
- 1993
振動励起状態の分子におけるエネルギー再配分は、化学反応における基本的な過程の一つである。本年度は、振動エネルギーの再配分を研究するのに最も適しているファンデルワールス系のうち、特に希ガス・ハロゲン分子の三体系を対象に、振動エネルギーの再配分過程のシミュレーションおよび解析を行なった。この系は3自由度系であり、そのポアンカレ断面は4次元である。4次元の断面は直接に視覚化できない。そのため、この系の時間発展に関する研究は、これまでほとんど成されてこなかった。本研究では、ポアンカレ断面の3次元空間への射影・切断を通じて解析を行なった。当初の計画では、量子論・古典論の両方についてシミュレーションを行なう予定であったが、ポアンカレ断面の視覚化に時間がかかったため、古典論についてのみシミュレーションを行なった。解析の結果次のことがわかった。希ガス・ハロゲン分子の三体系において、遠方から希ガス原子をハロゲン分子に衝突させる。この時、希ガス原子の入射角度が直角または直線の場合、直接的な散乱過程が存在する。これに対して、斜め方向から衝突する場合、希ガス原子は一旦ハロゲン分子とゆるい結合状態を作る。この際、衝突方向のエネルギーの一部は回転運動を励起する。このあと、回転運動と振動運動の共鳴によって、希ガス原子の再解離がおこる。以上の結果が、どこまで量子論で対応しているか興味がある。特に、希ガス原子を軽い原子から重いものまで変えることによって、カオスにおける量子古典対応を調べることができる。これは今後の課題である。