著者
長岡 顕 楠 貞義 深沢 安博 戸門 一衛 間宮 勇 松橋 公治 中川 功
出版者
明治大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1991

スペインのEU加盟とGATT体制の強化と発展の結果、外資の導入を主軸として産業構造の再編が進んだ。貿易体制の整備や非関税障壁の撤廃にともなう国内法制度の改廃も、EUの中では遅い方に属しながらも進捗している。それと平行してスペイン経済はEU経済に強く組み込まれるに至り、その結果として国内工業生産力は上昇した。VWなどの資本引上げ問題が発生しているものの、自動車産業は南欧向け低価格車の生産拠点化という特徴を明確にした。またME化の浸透による外国の情報処理メーカーの進出も顕著であった。電気通信部門はEU統合の最大の目的の一つといわれている。ヨーロッパレベルでのスケールメリットの実現に向けて、スペインの同部門の大幅な資本構成と技術の調整が予定されている。農業部門は、南部と地中海沿岸部における施設農業化と果実蔬菜生産への特化が実現し、EU域内向けの新主産地が形成された。しかし生産性が低い北部の小規模牧畜生産やカスティーリャの穀物地帯は淘汰されつつある。EU加盟は一般的にはスペインにはプラスになったが、加盟以前の社会経済問題が解決したわけではない。80年代後半に経験した経済成長は、一時的には雇用の改善に貢献したが、「雇用なき成長」であったために、失業率は90年代に入って再び上昇した。アンダルシアに至っては30%台を推移している。価格競争にともなうコスト抑制も大きな課題であり、高失業率の一方で、労働集約性の高い紡績業や季節性が強い農業部門には外国人労働者が受け入れられ、送り出し国から、受け入れ国へと変わった。スペインの各地域の不均等発展も改善はみられないままである。日本企業のスペイン進出地域分布をみても、二大拠点であるカタル-ニャとマドリードに集中している。外資を地域開発へと組み込ませる政策も進行させたが、順調だとはいえない。こうした不均等発展の解消のために、自治州への分権化の過程も進んだが、運営のための財源問題などは未解決となっている。