著者
持留 浩二
出版者
佛教大学
雑誌
文学部論集 (ISSN:09189416)
巻号頁・発行日
vol.91, pp.139-150, 2007-03-01

本論文は文学批評理論における比較的新しい手法である「進化論批評」について考察している。パラシュやキャロルといった批評家は新しい心理学の流れである進化心理学の観点から文学作品を読むことを提唱している。彼らは、科学者や宗教家と比べてより自由な立場にいる作家こそが最もよく人間の真の姿を理解しており、文学作品には普遍的な人間性が描かれていると言う。そこに描かれているものは生物学的な理屈に適っているのである。しかし進化論批評にも問題点がある。 時々、生物学的事実に反するようなことが作品に描かれていることがあるのだ。作品内容のみに注意を向けるだけではこの問題を解決できない。より正しい解釈を行うためには、作品のみに目を向けるのではなく、作者や、作者とその周辺の環境との相互作用を考慮に入れることが必要になってくるのである。
著者
持留 浩二
出版者
佛教大学
雑誌
文学部論集 (ISSN:09189416)
巻号頁・発行日
vol.89, pp.103-113, 2005-03-01

サリンジャーの短編小説「テデイ」に秘められたサブ・テクストとは一体どういうものなのかということを考察している。サリンジャーはグラス・サーガを書き始めるまでは比較的自伝的色彩の濃い作品を書いていたが、グラス・サーガ以降の作品は冗漫な作品が多く、その作品群のメッセージはなかなか読み取れない。偏執的なまでにプライパシーを大切にするサリンジャーはグラス・サーガを書くことによってそれまでの自伝的色彩の強い作品群を隠蔽しようとしたのではないかというのが本論文の趣旨である。「テデイ」の主人公はグラス・サーガの中心人物シーモアのプロトタイプといえる人物で、彼を通じてサリンジャーは前期シーモアを後期シーモアの創造によって隠蔽しようとするのである。