著者
播磨 有希子
出版者
京都大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2013-08-30

プロニューラル遺伝子Mash1は、細胞周期を活性化して細胞増殖を亢進させるとともに、細胞周期を止めてニューロン分化を促進するが、このような同一因子が相反する機能を発揮する分子機構に関して未だ不明の点が多い。現在、我々の研究室ではオプトジェネティクス(光遺伝学)の技術を応用して遺伝子の振動発現を光刺激により自在にコントロールする系を樹立した。これは外部から光刺激を与えることによって目的遺伝子のプロモーター活性のON/OFFをコントロールするという新規の方法である。この技術を用いて培養神経幹細胞や脳スライスサンプルにMash1遺伝子の振動発現を誘導させたところ神経幹細胞が増殖し、持続発現を誘導させたところ神経分化が亢進した。以上の実験から、Mash1の発現が振動するか、非振動状態になるかという発現動態の違いでその機能も異なることが明らかになった。現在は、Mash1の発現を可視化するために作製したレポーターマウスを用い、胎児脳や成体脳のスライス培養におけるMash1タンパク質の発現動態解析を独自のリアルタイムイメージング技術に基づき行っている。さらに、神経幹細胞の特定の周期を蛍光タンパク質で標識できる遺伝子改変マウス、Fucciマウスを用いて胎児脳と成体脳の神経幹細胞の発現遺伝子の違いをG1期に注目して解析する予定である。特に、Mash1の標的遺伝子に着目して解析を行う。これらの解析により得られた結果を基にして、最終的にはオプトジェネティクス技術を用いて休眠状態の成体脳神経幹細胞に、振動発現を人為的に誘導したときに変化が起こるかどうかを解析する。これらの研究を基に、遺伝子発現のダイナミックな変動に着目した神経幹細胞の制御機構の基盤原理の解明と再生医療への応用を目指す。