著者
数土 武一郎 清原 康介
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2020, no.30, pp.438-443, 2020-01-01 (Released:2020-07-21)
参考文献数
14

指差呼称は安全確認やヒューマンエラー防止を目的として,指差しを行い,その名称や状態を声に出して確認することである.我が国では,指差呼称は有効な安全対策として各業界で推奨され,医療現場や製造業等で幅広く実施されている.本研究では,医薬品製造の実生産ラインにおいて,指差呼称の実施回数を増やした際の作業員の肉体的・精神的疲労度およびヒューマンエラーの発生回数の変化について検討した.D製薬会社福島工場の製造作業員30名を対象に,1日の作業終了後に腕,口,目,足,精神の疲労度をVisual Analog Scaleにより10日間測定した.その後,作業中の指差呼称実施回数を通常の3倍として10日間勤務してもらい,同様に疲労度を測定して従前と比較した. その結果,指差呼称実施回数を3倍とした期間は,通常回数の期間と比較して,腕,目,精神の疲労度が有意に上昇した(p<0.05).口と足の疲労度には有意な変化は見られなかった.一方,ヒューマンエラーは全研究期間をとおして一度も発生しなかった. 以上の結果より,指差呼称実施回数を増やすことは作業員の疲労度を増大させる一方で,短期的にはヒューマンエラーの発生回数に影響しない可能性が示唆された.ただし,本研究の調査期間は計20日間と短く,ヒューマンエラー発生回数の差を把握するには十分な観察期間ではなかった可能性がある.今後はより長期的なモニタリングを行い,指差呼称の実施回数とヒューマンエラーの発生との関係を評価していく必要がある.