著者
服部 孝彦
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2021, no.31, pp.100-103, 2021-01-01 (Released:2021-09-17)
参考文献数
16

早期英語教育の考え方の理論的根拠として臨界期仮説をあげることができる.しかし現在まで,臨界期があるかどうかについては明確な結論は出ていない.本研究ではまず母語習得と臨界期の先行研究を概観する.その上で第二言語習得に関する臨界期の先行研究を概観し,研究動向を掌握する.そして臨界期が今後解明すべき課題について,言語習得環境からの視点も踏まえながら考察を行う.それらを踏まえ,2020年4月から全国の公立小学校で実施されている英語教育の有効性について,第二言語習得理論の立場から検討をする.
著者
宇田 剛 上山 敏
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2020, no.30, pp.656-673, 2020-01-01 (Released:2020-10-28)
参考文献数
10

公立高等学校の入学者選抜においては,中学生が学習指導要領に基づき,中学校生活3年間で身に付けた学力を検査する必要がある. 現行の中学校学習指導要領(平成20年3月告示)の外国語(英語)及び新学習指導要領(平成29年3月告示)においては,「聞くこと」「読むこと」「話すこと」「書くこと」という,いわゆる4技能を通して,コミュニケーションを図る資質・能力を育成することが目標として掲げられている. しかし,東京都立高等学校入学者選抜の英語検査においては,現在,「話すこと」の評価を行っていない.これは,選抜の当日に全受験者に「話すこと」の検査を行うことが物理的に不可能であることが理由である. そこで,現在,東京都教育委員会は,英語の資格・検定試験を行っている民間の事業者の知見を活用し,都立高等学校の入学者選抜に「話すこと」の評価を導入することを検討している.ここに,これまでの取組内容等について報告する.
著者
伊藤 みちる
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2019, no.29, pp.603-609, 2019-01-01 (Released:2020-01-24)
参考文献数
23

カリブ海地域におけるイスラム社会の規模は島々によってまちまちである.そのイスラム教徒は,大航海時代以降のヨーロッパ列強の新大陸植民地政策に関連し,世界各地からカリブ海地域に連れて来られた者たちが主流である.そのためカリブ海地域には,多文化,多民族・多人種が集まる,コスモポリンなイスラム社会が形成されている.そのイスラム社会は,21世紀のカリブ海地域においては拡大を続けている.その中で,急進的で過激な思想を持つイスラム教徒も出現しているが,カリブ海地域におけるイスラム教徒の多くは,キリスト教徒やヒンドゥー教徒などと,平等かつ重要な文化構成要素としての地位を築いている.
著者
森 功次
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2021, no.31, pp.409-419, 2021-01-01 (Released:2021-12-10)

近年「アートをビジネスに活かそう」というメッセージを掲げた本が多数出版されている.本報告では,近年のこの動向をまとめつつ以下の4点を指摘する.この動向の書籍では,(1)「アート」という語は基本的に価値語として用いられている.(2)「解釈は自由だ」とされる一方で,アートの文脈の豊かさも強調されている.(3)「アート」「アーティスト」に関する主張が不適切に一般化されたり,逆にことさらアートのことでもない話がアートの特徴として語られたりしている.(4)想定されている芸術形式や芸術的価値に偏りがある.最後に,この動向を大学教育に導入するさいの注意点を,対話型鑑賞教育,授業履修者数,アーティスト・イン・レジデンスの3つに関して述べる.
著者
小泉 恭子
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2020, no.30, pp.233-244, 2020-01-01 (Released:2020-04-09)
参考文献数
8

小論は,日本各地で近年増え続ける地方自治体や音楽ホールによるレコード鑑賞会が,地域の高齢者による,音楽という趣味を介したコミュニティとして創生されている状況に注目した.社会学のライフヒストリーの研究手法を用いながら,レコード鑑賞会の参加者の音楽聴取経験を解明して,歴史的・身体的な経験が公共圏でどう共有されていくかを論じた.レコード鑑賞会の参加者のタイプを3つに分け,そのうち第一のオーディオマニアへの聞き取り調査により,音楽でつながる趣味縁において,参加者同士が互いに承認関係を結んだり,地域貢献といった参加動機から社会関係資本の獲得へと活動を発展させたりする社会化の過程を明らかにした.
著者
小井土 守敏
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2019, no.29, pp.74-92, 2019-01-01 (Released:2020-01-24)
参考文献数
1

応仁の乱以降、秀吉による平定にいたるまでの伊勢国の争乱を描いた軍記物語『伊勢軍記』を翻刻し、略書誌を添えて紹介する。併せて、戦国期の伊勢国をめぐる軍記作品の書写環境について考察する。
著者
水谷 千代美 川之上 豊 平野 泰宏 土田 百恵 弘田 量二
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2017, no.27, pp.210-212, 2017-01-01 (Released:2020-04-02)
参考文献数
4

接触性皮膚炎患者とアトピー性皮膚炎患者に大別され,化学繊維製の衣服の着用した際に,かゆみ,湿疹,かぶれなどの症状に苦しんでいる.皮膚科医はアレルギー性皮膚炎患者に対して,ポリエステルのような化学繊維の着用を避けて綿繊維の着用を薦めている.しかし,医療機関は,なぜ綿繊維がよいのか実証されていない.本研究は,アレルギー性皮膚炎患者の皮膚の水分,油分,弾力および皮膚pHを健常者と比較し,皮膚の状態を把握した後に,アレルギー性皮膚炎患者に綿および二種類のポリエステル繊維を用いたアームカバーを装着し,繊維の違いが着用感およびかゆみなど皮膚に与える影響について調べた.その結果,かゆみは,汗に含まれるかゆみ成分であるヒスタミンが影響し,疎水性繊維であるポリエステルはヒスタミンを含んだ汗が表面に残り,ポリエステル繊維と皮膚が摩擦されることによってかゆみが発生しやすく,親水性繊維の綿は,汗を吸水するため,かゆみを抑えることができると考えられる.しかし,汗をかいていない場合は,布の曲げ硬さや表面特性が関係し,たとえ綿であっても硬い綿布は皮膚を刺激して不快感を与えることが分かった.
著者
陳 海涛
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2017, no.27, pp.629-637, 2017-01-01 (Released:2020-04-02)
参考文献数
9

近年,日本語のフィラーについての研究は盛んになっている.しかし,中国語のフィラーについての研究は,断片的なもので,十分重視されていない.本稿では,コーパスを使用し,中国語指示詞系フィラー「这个」を研究対象をとし,その使用法を分類する.
著者
森 功次
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2020, no.30, pp.457-473, 2020-01-01 (Released:2020-07-15)

2015年のVOCA展に,コンセプチュアル・アーティストの奥村雄樹が作品を提出しようとしたところ,事務局側から出品を拒否された.本論はこの出品拒否事件をめぐってなされた奥村と事務局とのやりとりを読み解きながら,芸術作品のカテゴリーと作者性との関係を考察する試みである.作品の作者はどのようにして特定されるのか,また,作品の見方によって作者が変わることはありうるのか.こうした問いに対して本論は,作者性をめぐる近年の分析美学の議論を援用しながら「意図」や「責任」という観点から答え,最終的に作者の芸術的達成や責任を限定する一つの原理を提案する.それはすなわち,作品制作に複数の者が関わっている場合,あるカテゴリーにおいて一方の者に芸術的達成の責任を認めつつ,同時に同一カテゴリーにおいて別の者のみに作者性を付与することはできない,という原理である.
著者
阿部 和子 柴崎 正行 阿部 栄子 是澤 博昭 坪井 瞳 加藤 紫識
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2014, no.24, pp.245-264, 2014 (Released:2015-01-31)
参考文献数
70
被引用文献数
1 1

本研究の目的は,「おんぶ」や「抱っこ」という身近な育児行為の変化とえじこ,子守帯,ベビーカー等の育児用品の変化と現状の検討を通して,近代日本における子育ての変化の過程を考察するものである.「おんぶ」は,子守や家事の必要性から生れた庶民の育児法であり,その起源は,平安時代にまでさかのぼる.それが明治以降わずか150年ほどの間に「労働のためのおんぶ」から「育児のための抱っこ」へ,日本人の子育てのスタイルが変化をとげた.また明治から昭和の初めにかけて,多くの人々にとっての育児用品は日用品の代替であった.だが第二次世界大戦後,特に,欧米の情報や文化が庶民レベルまで浸透し,普及しはじめる60年代に入り育児用品は家庭で作るモノから買うモノ(商品)へと変化する.モノの豊かさは,ある意味で親子の生活を便利にすると言える.一方,それらは自らの子育ての必要感から作りだされたモノではない.現在,他者から提供されるあふれるモノの中で,その使い方さえ教えてもらわなければならないという逆転現象を生んでいる.それがモノにたよる育児へと変化し,もはや商品化されたモノがないと育児が難しい状況である.子どもの成育環境の悪化が叫ばれる昨今,本研究で取り上げた諸事象は,一考すべき問題であろう.
著者
森 功次
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2021, no.31, pp.365-381, 2021-01-01 (Released:2021-12-09)
参考文献数
33

近年の分析美学の領域では,理想的批評家や美的価値についての伝統的理論を再考しようという動きが高まっている.本論では,伝統的理論を批判的に再検討するその近年の動向を紹介し,その理論進展をふまえるとわれわれは専門家の意見にどのように耳を傾けるべきなのか,という問題を考察する. 本論はまず,伝統的な議論として,ヒュームが「趣味の標準について」で提示した論点を紹介し,次に最近の議論として,理想的批評家について検討しているジェロルド・レヴィンソンの議論を紹介する.その後,美的価値の快楽主義に対する近年の批判について検討する.本論ではとりわけ,ドミニク・ロペスが提示しているネットワーク説に焦点を当て,その利点と動機を明らかにする.最後に,そこまでの考察を元に,われわれ凡人は芸術批評をどのように読むべきか,という問題に答える.われわれは,批評家がそこで何を達成しているか,そして批評家がそこでどのような能力を発揮しているか,といった点に着目しながら批評文を読むべきである.
著者
大喜多 紀明
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2016, no.26, pp.518-528, 2016-01-01 (Released:2020-03-18)
参考文献数
12

近年,宮崎によるいくつかのアニメーション映画作品に裏返し構造が使用されていることが確認された.アニメ版『風の谷のナウシカ』は,合計6対の対応を持つ裏返し構造からなる[1].本稿では,宮崎駿がアニメーション映画を創作する際に駆使した表現技法を明らかにすることを目的とし,[1]で示されたアニメ版『風の谷のナウシカ』の裏返し構造に関する知見に基づき,アニメ版の原作に相当する漫画版『風の谷のナウシカ』との対比を行った.その結果,アニメ版の裏返し構造は,漫画版がアニメ化される際に生成されたものであることが確認できた.
著者
伊藤 みちる
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2018, no.28, pp.660-695, 2018-01-01 (Released:2019-07-26)
参考文献数
107
被引用文献数
1

本稿は,旧英領カリブ海諸島におけるヨーロッパ系白人のアイデンティティとしての白人性の多様性に着目し,バルバドスとトリニダードを例に,白人性の違いやその特徴を探るものである.この課題は,フランス系トリニダード人の白人性構築の過程について探った拙稿 “Constructing and Reproducing Whiteness: An oral history of French Creoles in Trinidad” (2016) [1] と“French Creoles in Trinidad: Constructing and Reproducing Whiteness” (2006)[2] において,フランス系トリニダード人が他ヨーロッパ系白人と同一視されることが不本意であると強調していたことに端を発する.本稿では特に「ヨーロッパ系白人とは誰か」という問いを中心に,蓄積が少ないカリブ海地域の白人性に関する実態の一端を明らかにすることを目指した.そのため2016年8月と2017年2月にバルバドスとトリニダードを訪問し,ヨーロッパ系白人であると自己認識し,他者にも認識される者を対象にオーラル・ヒストリーの聞き取りを行った.本稿で引用した各島5名分の語りの分析から明らかになったのは,バルバドスのヨーロッパ系白人は自身の混血の事実を隠そうともせず,身体的特徴が許す限りバルバドス社会ではヨーロッパ系白人として認識され,ヨーロッパ白人として名乗れるということである.他方,白人としての純血性が重視されるトリニダードでは,ヨーロッパ系白人は自身の混血の可能性を否定し,異人種間結婚に嫌悪を示す者が多かった.バルバドス総人口の2.7%,トリニダードの総人口の0.7%しか存在しないヨーロッパ系白人が,今後も「白人」であり続けることは,特にこのグローバル化が進んだカリブ海地域では困難である.そのような状況下においてなぜヨーロッパ系白人としてのアイデンティティを強固に持ち続けるのか.それについては,後続研究としてヨーロッパ系白人と非ヨーロッパ系白人の交流に注視していきたい.
著者
髙田 祐里 小林 実夏
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2013, no.23, pp.47-76, 2013 (Released:2013-02-08)
参考文献数
31

近年、米国を中心にフルクトース過剰摂取による健康への悪影響についての報告が論争を呼んでいる。日本では、厚生労働省の「2010年版日本人の食事摂取基準」において、初めてフルクトースの過剰摂取への警告がなされたが、食事摂取基準で数値を算定できるほど十分な科学的根拠は得られていない。その理由として、日本の食品成分表には糖類の成分値の記載がないため、単糖類、二糖類の摂取量を推定できないことが挙げられる。そこで本研究では、日本人の糖質摂取量の推定を目的として糖質成分表の開発を試みた。米国農務省(USDA)が作成した食品成分表には、ガラクトース・グルコース・フルクトース・ラクトース・スクロース・マルトースの成分表示がある。そこで、USDA食品成分表を用いて、日本食品標準成分表2010に収載されている食品の代替を行うことにした。USDA食品成分表に記載のない食品のうち、糖質総量が10g以上の食品を原材料に含むものについては、レシピを作成して原材料を代替し、100g当たりの重量に換算することで糖質総量を算出した。日本食品標準成分表2010には1878食品の記載があり、そのうち557食品の糖質成分表を作成した。日本食品標準成分表で、特に糖質を考慮すべき食品は250品(USDA食品成分表で糖質総量が10g以上の42食品を原材料に含むもの)あり、そのうち221食品(88.4%)を代替することができたため、日本人の糖質摂取量の推定が可能となった。本研究で開発した糖質成分表から推定された糖質摂取量の妥当性を、生体指標を用いて検証することができれば、日本人の糖質摂取量について多くの知見を得る可能性が示唆された。
著者
西河 正行 八城 薫 向井 敦子 古田 雅明 香月 菜々子
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2015, no.25, pp.1-14, 2015 (Released:2015-03-27)
参考文献数
11

心理学教育を通して社会人基礎力を育成するキャリア教育を行うに当たり,社会・臨床心理学専攻に所属する全学生を対象に現行の心理学必修専門科目の教育効果について,学生のスキル習得認知,それに関連する心理学的特質等から,学生評価の学年比較を行った.その結果,本専攻が重視するジェネリック・スキルの認識に学生と教員で違いが見られ,また「前に踏み出す力」の育成に課題が認められた.学年比較からは,3年生に大きな特徴があり,「自尊心」が他学年より有意に低く,キャリア選択の動機づけにおいて「社会的安定希求」が有意に高かった.本結果に加え,他大学の教育実践の視察も踏まえた結果,3年後期に開講する新科目の授業内容は心理学教育を通して「前に踏み出す力」を身につけられるよう,①学生自身のキャリアについて考えさせる,②キャリアモデルを提示する,③内向的で受身的な学生に自信を与えるという3つの柱を導き出した.最後に,具体的な授業運営において,教育方法にPBL型授業を取り入れる可能性ならびにジェネリック・スキルについて学生と教員の間で共通の認識を持つ必要性を示唆した.
著者
大喜多 紀明
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2019, no.29, pp.676-681, 2019-01-01 (Released:2020-01-24)
参考文献数
13

本稿では,明治以降,恣意的におこなわれた迷信打破が,迷信を排除する方向に世論を導いたのみならず,結句,日本人の心性を制限する方向へと導いた可能性があることを,迷信と述語論理の関連性の観点から論じた.
著者
大喜多 紀明
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2012, no.22, pp.147-158, 2012 (Released:2012-11-14)
参考文献数
9

本稿では,知里幸惠が編集・翻訳した『アイヌ神謡集』[1]に掲載されている13編のカムイユカㇻの内の5編をテキストとし,それらに見出される交差対句を紹介している.本稿における前提は,交差対句が,アイヌ民族における特徴的な修辞表現様式一つであるということである.本稿で紹介した交差対句の資料は,アイヌの生活文化を理解する際に有用な知見であると筆者は判断している.
著者
大喜多 紀明
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2019, no.29, pp.768-773, 2019-01-01 (Released:2020-01-24)
参考文献数
11
被引用文献数
1 1

ヨハネによる福音書には七つの「しるし」と呼ばれる七つの奇跡物語が配置されている.このことから当該福音書は「しるし福音書」と呼ばれてきた.七つの「しるし」は独立した小さな物語群であり,連続して配置されているわけではない.本稿では,かかる七つの「しるし」の構造的関連性を,裏返し構造の観点から検証した.
著者
鈴木 紀子
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2013, no.23, pp.258-276, 2013 (Released:2013-10-22)
参考文献数
21

1950年代に加速するアメリカの冷戦文化政策に,文学はどのような関わりを持ったのか.本論文は,戦後日本で広く名を馳せ,且つGHQや米国国務省の支援を受けた米文学作家-William Faulkner,Pearl Buck,Laura Wilder-とその作品に着目し,戦後アメリカが日本に対し行った「模範的民主国家アメリカ」の自己イメージ形成にこれら米文学作家・作品が果たした役割を考察する.一方日本人読者はどのようにその「アメリカ」を受容したのか.筆者は,日本人読者がアメリカを優越的他者として受容しながら,同時に文学に表象された,また作家自身が体現する「アメリカ」に日本文化との共通要素を積極的に見出そうとする解釈が見られる事に注目する.この独特な解釈には,戦後日本人がアメリカを「内側」に取り込み,自己として消化し,それを足掛かりにすることで形成しようとした新たなアイデンティティの一端を見ることが出来るのではないか.これらの考察を通し,本論文は,戦後冷戦初期に日米両国のナショナルな主体形成の一助を成した米文学の機能と,それを巡る両国間の相互依存関係を提示する.
著者
清水 沙也加 林 恵美子 若林 綾
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2014, no.24, pp.73-77, 2014 (Released:2014-05-30)
参考文献数
8

この研究の目的は,近代日本で文化的テクストが読者/オーディエンスによってどのように生産され,翻訳されていたかについて考察することである.とりわけ文化産業が発展した近現代では,文学テクストとメディアの関係はより錯綜し,多様な問題系を生み出している.文学テクストは,新聞や雑誌の記事の一つとして,美しくデザインされた本として,受け取られる.ときには,映画やマンガ,アニメーションに移植されることもある.そこに注目すると,文学テクストは,メディアや読者との協働を通じて,さまざまに変化していると言えるのだ.私たちは,資本主義と文化との関わりに注目しながら,メディアの中で作り上げられたイメージが,文学作品の受容にどんな影響を与えるかを検討した.