著者
緒方 優 池亀 天平 文東 美紀 笠井 清登 岩本 和也
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.3-6, 2015 (Released:2017-02-16)
参考文献数
19

セロトニントランスポーターをコードする SLC6A4 遺伝子には,HTTLPR と呼ばれる機能的な多型と,第一エクソン周辺に CpG アイランドが存在している。CpG アイランドやその周辺の CpG アイランドショアと呼ばれる領域のメチル化率と遺伝子発現量は負の相関が認められている。双極性障害では脳と末梢試料に共通して,CpG アイランドショアの高メチル化が認められている。神経系細胞株を用いた実験では,気分安定薬存在下で同領域が低メチル化することが認められている。今後, HTTLPR とメチル化状態の関係や疾患特異性,メチル化の機能的な意義についての検討が必要である。
著者
文東 美紀 岩本 和也
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.161-164, 2023 (Released:2023-12-25)
参考文献数
10

体細胞変異は,受精後の発生段階の途中で生じ,個体中にモザイク状に存在するゲノム変異を指し,生じる時期によっては脳組織に特異的な変異となる。またこのような脳特異的な変異の一部には,神経疾患の原因になるものも報告されている。筆者らは体細胞変異の中でもレトロトランスポゾンの一種であるlong interspersed nuclear element‐1(LINE‐1)挿入に着目しており,これまでに統合失調症患者の神経細胞においてLINE‐1コピー数が増大していること,LINE‐1が新規挿入された部位は神経機能に関与する遺伝子の近傍に多いことを示してきた。このようなLINE‐1挿入ゲノム部位プロファイルをより詳細に決定するため,筆者らは新たなシングルセルレベルでの解析法であるNECO‐seq法を確立し,統合失調症患者死後脳を使用してケース・コントロール解析を行った。合計1,000個以上の神経細胞核の解析の結果,患者群において神経発生の比較的初期で生じたと考えられるLINE‐1挿入は,神経関連遺伝子の近傍に蓄積されていることが示された。LINE‐1挿入が生じた遺伝子には神経伝達物質受容体などが含まれており,このようなLINE‐1挿入は,神経細胞の形態や機能に多大な影響を与えると考えられた。
著者
柳田 悠太朗 仲地 ゆたか 文東 美紀 岩本 和也
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.2-6, 2023 (Released:2023-03-25)
参考文献数
13

DNAメチル化やヒストンタンパク質の修飾など,エピジェネティックな状態には遺伝環境相互作用が反映されており,精神疾患の病因・病態の理解のためにきわめて重要であると考えられている。セロトニントランスポーターは繰り返し配列の多型領域とDNAメチル化による転写制御を受けることから,遺伝環境相互作用研究のためのよいモデルであると考えられる。本稿では,高齢者コホート検体を利用し,正常加齢に伴う認知機能の低下や抑うつ傾向について検討した筆者らのセロトニントランスポーターでの研究例を紹介する。研究の背景と共に,臨床所見とMRI画像による脳体積およびジェノタイピングデータやDNAメチル化状態を統合することで明らかになりつつある結果を紹介し,現状の課題と今後の展望を述べる。