- 著者
-
文東 美紀
岩本 和也
- 出版者
- 日本生物学的精神医学会
- 雑誌
- 日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
- 巻号頁・発行日
- vol.34, no.4, pp.161-164, 2023 (Released:2023-12-25)
- 参考文献数
- 10
体細胞変異は,受精後の発生段階の途中で生じ,個体中にモザイク状に存在するゲノム変異を指し,生じる時期によっては脳組織に特異的な変異となる。またこのような脳特異的な変異の一部には,神経疾患の原因になるものも報告されている。筆者らは体細胞変異の中でもレトロトランスポゾンの一種であるlong interspersed nuclear element‐1(LINE‐1)挿入に着目しており,これまでに統合失調症患者の神経細胞においてLINE‐1コピー数が増大していること,LINE‐1が新規挿入された部位は神経機能に関与する遺伝子の近傍に多いことを示してきた。このようなLINE‐1挿入ゲノム部位プロファイルをより詳細に決定するため,筆者らは新たなシングルセルレベルでの解析法であるNECO‐seq法を確立し,統合失調症患者死後脳を使用してケース・コントロール解析を行った。合計1,000個以上の神経細胞核の解析の結果,患者群において神経発生の比較的初期で生じたと考えられるLINE‐1挿入は,神経関連遺伝子の近傍に蓄積されていることが示された。LINE‐1挿入が生じた遺伝子には神経伝達物質受容体などが含まれており,このようなLINE‐1挿入は,神経細胞の形態や機能に多大な影響を与えると考えられた。