著者
斉 中凌
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.121-141, 2007-10

商学部創立50周年記念 = Commemorating the fiftieth anniversary of the faculty50周年記念論文金融政策の主体である中央銀行は時には財務状況が悪化し債務超過に陥り,物価の安定という政策目標を達成することができなくなった事態が起こる。本稿では,大量な海外資産(外貨準備)を所持している中国の中央銀行である中国人民銀行に焦点を当て,その外国為替市場への介入にかかるコストを推計し,人民銀行の現在の財務状況を調べる。その結果に基づき,人民銀行にとる今後の課題を論じる。 人民銀行は国際収支黒字の拡大を背景に,人民元の為替レート水準の安定を図るため,外国為替市場への介入を続けており,外貨準備残高は急速に拡大している。本稿では人民銀行のバランスシートを使用し,データが利用可能な2001年1月以降について為替市場介入によって発生した人民銀行の損益,すなわち為替市場介入コストを推計した。推計結果より,介入による累積損失は拡大傾向にあり,その規模が2005年末時点で人民銀行の自己資本の5倍にも至っていること,また,介入コストの要因を分解してみると,為替レートの変動は金利変動より影響力が強く,その効果がより早く現れることがわかった。 以上の推計結果を踏まえ,人民銀行にとって如何に財務の健全化を維持しながら,金融引締政策を遂行できるのかは今後の大きな課題であると結論付けた。