- 著者
-
斉藤 亨治
- 出版者
- 国立歴史民俗博物館
- 雑誌
- 国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
- 巻号頁・発行日
- vol.96, pp.247-263, 2002-03-29
善光寺平では,更新世前期からの盆地西縁部の断層の活動により盆地が形成され,その盆地が地殻変動・火山活動・気候変化によって盛んに供給された土砂によって埋積された。善光寺平周縁をはじめ長野県に扇状地が多いのは,流域全体のおおまかな傾斜を表す起伏比(起伏を最大辺長で割った値)が大きく,大きい礫が運搬されやすいためである。その扇状地には,主に土石流堆積物からなる急傾斜扇状地と,主に河流堆積物からなる緩傾斜扇状地の2種類ある。急勾配の土石流扇状地については,その形成機構が観測や実験によりかなり詳しく明らかになってきた。しかし,緩傾斜の網状流扇状地については,その形成機構はよく分かっていない。扇状地と気候条件との関係では,乾燥地域を除いて,降水量が多いほど,気温が低いほど,扇状地を形成する粗粒物質の供給が盛んで,扇状地が形成されやすいといえる。また,気候変化との関係では,日本では寒冷な最終氷期に多くの扇状地ができた。その後の温暖な完新世では,扇状地が形成される場所が少なくなったが,寒冷・湿潤な9000年前頃と3000年前頃,扇状地が比較的できやすい環境となっていた。善光寺平の地形と災害との関係では,犀川扇状地および氾濫原部分では,1847年の善光寺地震で洪水に襲われているが,氾濫原部分では通常の洪水もよく発生している。扇端まで下刻をうけた開析扇状地では水害が発生しにくいが,扇頂付近が下刻をうけ,扇端付近では土砂が堆積するような扇状地では,下刻域から堆積域に変わるインターセクション・ポイントより下流部分で水害が発生しやすい。裾花川扇状地や浅川扇状地には扇央部にインターセクション・ポイントがあり,それより下流部分では,比較的最近まで水害が発生していたものと思われる。