著者
斎藤 多佳子
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2015

中高生の理系科目への興味喚起や理科志向の動機付けを実験・体験を通じて行う際に主題の理解を深める為、五感を介して認識するようなモデル実験系の構築を目指し本研究を遂行した。日本人にとって最も身近な樹木のひとつであるサクラの葉を材料として、サクラ葉成分のクマリン酸配糖体が糖分解酵素β-グルコシダーゼにより分解される過程で生じる香気成分(クマリン)の分析や、酵素反応での分子構造変換による分子構造と物性の変化を、クロマトグラフィーでの検出に加えて、蛍光性、匂いの変化として感知する系を検討する。1 構内のサクラ葉を6月、10月の2回採集し、水洗浄後-30℃で保存しサンプルとした。2 標品(クマリン酸配糖体(メリロトシド)、β-グルコシダーゼ、クマリン)を用いて、蛍光スペクトル、薄層クロマトグラフィー(TLC)を測定手段として酵素反応の経時変化、物性、等を検討し、反応条件を決定、生成物を同定した。結果、(1)クマリンの蛍光は325nm励起で、395-420nmの範囲に濃度、溶媒条件による蛍光極大を示す。β-グルコシダーゼによる糖分解反応は、37℃、0.1M酢酸ナトリウムー酢酸、pH5.6(pH3.2-11.0の緩衝液で検討)が至適条件である。(2)クマリン酸配糖体の酵素分解ではまずクマリニック酸が生成し、その後徐々に閉環してクマリンとなる。クマリニック酸は500nmに強い蛍光を示し、反応開始30秒で検出され、クマリンは、60分以降で検出されてくる。(3)TLC分画 : シリカゲルを担体として2種類の溶媒系(酢酸エチル/ヘキサン)、(エタノール/アンモニア/水)で展開すると、メリロトシドと、中間生成物、クマリンの分離同定ができる。(4)上記反応進行により、クマリン芳香を感知できる。本研究により、モデル実験系を構築する基礎条件が得られた。