著者
春日 喬 坂元 章
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1998

申請者たちは、インターネットの利用方法の1つであるMUD(MultiUser Dungeon)の中で社交的に行動することが、現実場面における人々の対人不安傾向を軽減するかを検討している。昨年度の研究では、シャイネス傾向者がMUDの中で社交的に行動した後には、現実場面での他者に対する行動が積極的になり、対人不安傾向が低くなることが確認された。しかし、この実験では、被験者はMUDを30分しか使っておらず、また、現実場面での積極性がMUD使用の直後に観察されており、短期的な影響しか検討されていない。さらに、シャイネス傾向の低いヒトは被験者となっていない。そこで、本年度の実験では、被験者に合計して9時間(1日に1〜3時間)にわたってMUDを使わせ、さらに、他者に対する積極性の測定を別の日に行った。また、シャイネス傾向の日とも被験者とした。具体的にはまず、予備調査によって、シャイネス傾向が高いと判定された10名の女子大生と、それが低かった10名を、使用群と統制群に半々に分けた。使用群は、MUDの中で「社交的な人物を演じる」ように教示され、9時間、MUDの1つである「The Palace」の一部のサイトを使用した。一方、統制群の被験者は、同じ時間、中立的な映像を視聴した。これらのメディア接触の後、別の日に、待合室テクニックを使って、被験者の対人的積極性を調べた。被験者は、見ず知らずの人物(サクラ)と、2人きりにされ、その人物に対して、被験者がどれだけ積極的に行動したか(話しかけたか、など)を調べた。この結果、シャイネス傾向の低い被験者の場合で、使用群のほうが、統制群よりも、他者に対して積極的に行動するという有意な結果が得られた。このように、一応の有意な結果は得られたが、本実験は、実施に非常に時間がかかるため、被験者の数はまだ多くない。現在も、継続してデータを追加している。
著者
村田 容常 本間 清一
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

リンゴを切ると褐変することはよく知られた現象で、酵素的褐変の典型例である。これは、リンゴ細胞中のポリフェノール類がポリフェノールオキシダーゼ(PPO)により酸化されキノン体となり、それがさらに重合するためと考えられている。リンゴPPOは、我々により1992年に初めて単離された。抗PPO抗体を調整し、PPOのリンゴ組織内分布を検討したところ、PPOはリンゴ果実の中心付近(種子の回り)に局在することがわかり、これが褐変部位と一致した。このようにリンゴPPOは、リンゴの褐変に中心的役割をはたすが、構造と活性の詳細は未詳であり、また、その発現を制御することにより褐変をコントロールすることも試みられていない。そこで申請者は、まずリンゴPPO遺伝子をクローニングし、その構造を明らかにすることとした。リンゴPPOをコードすると予想されるプライマーを用い、PCR法によりゲノムDNAを増輻した。その結果、PPO遺伝子と思われるバンドが検出された。増輻断片をpBluescriptに組み込み、大腸菌に導入した。得られた十数個のコロニーの遺伝子を調べたところ2個のPPO遺伝子を得ることができた。各々をシークエンスし、全塩基配列を決定し、アミノ酸配列に翻訳した。その結果、リンゴPPO遺伝子にはイントロンがないこと、シグナルシークエンスよりPPOタンパク質はプラスチドへ輸送されること、銅2分子が結合すると予想される保存性の高い2つの活性中心領域(Cu-A、Cu-B)が存在すること等が明らかとなった。さらに本遺伝子の大腸菌中での発現に成功した。発現タンパク質はPPO活性を有し、かつ抗リンゴPPO抗体と反応した。
著者
久保田 育子
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
人間文化論叢 (ISSN:13448013)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.335-343, 2006

This paper focuses on Gallathea written by John Lyly in 1591. Gallathea was one of the first English plays to use the heroines in male disguise. On the English Renaissance stage, women's roles were played by boy actors, who were considered to be immature as their gender/sex had not yet developed fully to adulthood. I will highlight the multiple gender identities of boy actors and female characters and also the confusions of gender/sex created by Lyly's duplication of cross-gender disguise. In Gallathea, the two heroines disguised as boys fall in love with each other and their tangled sexual relationship shows aspects of the polymorphously perverse. The paper is divided into three parts. I will first illustrate the setting of the world of Gallathea and Lyly's design. The second part examines the relationship between male attire and constructions of male gender. In the third, I would like to explore the representation of women in breeches, which has been symbolized as invasion of the sexual norm. My focus is on the fabrication of the male gender/sex created by male clothing. The ambiguities of gender identity created by cross-gender casting and cross-gender disguises show the plasticity and multiplicity of gender/sex and sexuality.
著者
関根 令夫
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
研究紀要
巻号頁・発行日
vol.32, pp.31-49, 2002

多くのスポーツでは,競技を行う上で左利きの選手が優位な場合が多く見られる。しかし,和弓(以下弓道とする)の場合,左射法(的に対して右体側が面するような半身の姿勢。以下,左射法とする)は,ほとんど行われていない。身体的な障害があるような極く少数を除き,伝統的に右射法で,弓を引くことが義務づけられている。弓道において,右射法は,日本文化の継承という意味で当然である。左射法が認められていない具体的な理由は,行射の際,上座に対し背中(尻)を向けることのないようにというしきたりや,団体競技の時の危険性や,審判・競技運営上の問題がその根拠とされている。そこで,早気対応法として,左射法の有効性について考えると,高校生(3年間)や大学生(4年間)という短い選手期間の中で,一度,早気になってしまうと,短期間で早気を克服するには困難である場合が多い。早気矯正法の一つとしての左射法を使う考え方は,中国の弓術書「射学正宗」にみることができる。筆者は,右射法で,早気のために十分な稽古ができない間,左射法で練習をすれば,伸び合いも十分に行うことが出來る(運動学習における転移)と考える。この点に関しては,脳生理学(左右脳の機能差)の研究を待たなければならない。また,アーチェリーにおける狙いの指導の中では,危険性もともなうため,弓を持つ手を利き目で決定したり,利き手が左優位の射手には,左用の弓を使う左射法を考慮しなければならないとしている。弓道においても,アーチェリーのように狙いの危険性から考えても,弓道の利き眼に関しての指導法は,改善されるべき内容である。本研究が,弓道初心者指導方法の基礎資料や効果的な指導方法の一助となれば幸いである。科学的な面も視野に入れ,競技としての弓道・伝統的日本文化としての弓道に寄与できるものと考える。
著者
内田 忠賢
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

全国各地に伝播した「よさこい祭り」について、調査・研究した。本研究の特色は次の4点。1)現代の社会現象を代表する対象だが、先行研究が少なく、先駆的、独創的と自負する。2)巨視的な調査と微視的な調査を組み合わせ、個人に踏み込んだ新しい地理学を目論む。3)助成期間(3年間)、参与観察に徹し、内部者しか体験できない過程を調べられた。4)学術論文、学会発表だけでなく、マスコミ報道でも、研究成果の一部を公表できた。高知起源(1954年開始)の「よさこい祭り」は、90年代以降、札幌「YOSAKOIソーラン祭り」の影響で、各地に伝播した。独自性と地域性を上手く出せ、比較的安上がりなイベントだからである。鳴子踊りと民謡の組合せが基本だが、振付、音楽、衣装等が自由であるため、全国600カ所以上に伝播した。本研究では、全国で関連資料を収集し、現地調査を行った。特に千葉県内での伝播に着目した。県内のチームに参加、遠征や祭りの企画・運営に関わった。千葉県では、全国大会も始められた。ともかく、伝播のメカニズムとして、次の3点を指摘できる。1)応用が利く「よさこい祭り」は各地で受容されたが、常に、イノベータが存在する。2)インターネットを含む現代的なネットワークと都市的な人間関係が核心にある。3)商工会とNPO、匿名性を帯びる個人が、絶妙のバランスで組合わされる。
著者
大塚 惠 荒川 信彦
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1996

アレルギー反応の媒介物質として知られるヒスタミンは生体内でヒスチジンより生成される。本研究では、ビタミンCの体内ヒスタミン分布に及ぼす影響を調べることを目的とし、ラット腹水より調製した肥満細胞および粘膜型肥満細胞のモデル細胞である好塩基球白血病細胞(RBL-2H細胞)を用いてヒスタミン遊離に及ぼすビタミンCの影響について検討を行った。1)ラット腹水肥満細胞からの遊離ヒスタミンに関する検討: 腹水より採取した肥満細胞は、各種濃度のビタミンC添加培地で30分培養を行なったが、この前処理によって顕著な細胞内取り込みが行なわれなかった。しかし、非免疫刺激剤(コンパウンド48/80)により細胞内全ヒスタミン量の70%が放出される条件下で、生理的濃度のビタミンCで前処理を行なった肥満細胞ではヒスタミン放出の低下傾向が認められたが、高濃度のビタミンCと前処理した場合には顕著な差はみられなかった。2)RBL-2H細胞からの遊離ヒスタミンに関する検討: 本細胞は、高濃度のビタミンCで前処理を行なうことにより増殖は抑制された。また、ビタミンCの添加濃度の増加に伴って経時的に細胞内取り込み量は増加した。増殖に顕著な影響の現れない条件で各種濃度の細胞内ビタミンC量をもつ細胞を調製したところ、高濃度のビタミンCを含む細胞において非免疫刺激剤(タプシガルギン)によるヒスタミン放出は有意に抑制された。以上のことから、細胞をビタミンCで処理することにより、非免疫刺激剤に対するヒスタミン放出の抑制に寄与する可能性が示唆された。
著者
細矢 治夫 時田 澄男 浅本 紀子
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

われわれはこれまでの研究で、n次元の水素原子のシュレーディンガー方程式の解の角度部分の縮重度の一般式を導出し、それがパスカルの三角形を若干修正した非対称パスカル三角形によって容易に表現できることも示した。これは、化学者の帰納的直観に基づいて得られた代数的な処方箋であるが、この波動関数に数学的に厳密な裏付けを行うこと、及び得られた波動関数を動的にグラフィック表示するという二つの目的をもっている。以下に、本研究で得られた結果を列記する。i)アニメーション技法の開発簡単な操作で、原子軌道のn次元のイメージを把握しやすくするアニメーション技術を、市販のQTVRというソフトウエアを利用して実現した。ii)3次元の原子軌道表示の見直し3次元のd軌道も、切断する面の方向と位置を変えることによって、s型、p型、d型等いろいろな対称性をもった断面を得ることができた。iii)4次元の原子軌道の多面的な可視化ii)で得られた可視化の手法を4次元の原子軌道に拡張して適用することによって、4次元の原子軌道関数の極座標表示を直交座標系に変換してから、様々な等値曲面表示を行う手法を開発した。iv)原子軌道の縮重度とパスカルの三角形n次元の原子軌道の縮重度が、変形した非対称パスカルの三角形によって容易に表されることは既に見出しているが、微分方程式の解の代数的な構造の解析から、その数理的意味についての考察を若干進めることができた。
著者
狩野 かおり 無藤 隆
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター紀要
巻号頁・発行日
vol.1, pp.19-31, 2004
被引用文献数
2

本研究の目的は、地域の子育てサークルとインターネット上における育児期の親同士のネットワークがサポートを提供する場としてそれぞれどのように機能しているのかを比較検討することであった。そのために、地域の子育てサークルに所属する親メンバー307名とインターネット上の育児関連サイト内のネット掲示板を定期的に利用している親217名を対象として、親子の属性やネットワークの利用動機、現在の身近なサポート環境および親や個としての心理的健康、そして利用しているネットワーク形態がもっていると思われるサポート機能について尋ねる質問紙およびオンライン調査を行った。その結果、地域の子育てサークルとインターネット上の育児掲示板という二つのネットワーク形態を比較した時に、育児サークルの方は、子育てをある程度経験した親が既存のネットワークを広げる目的で参加し、コミュニティ的な支え合いや、親子同士の交流を通じた親や個人として視野の広がりを経験する機会を提供する場として特徴付けられるのに対して、インターネット上の育児掲示板は、育児経験の浅い親が育児情報を手に入れたりよその親の子育ての様子を知りたいというニーズを満たすために利用し、親としての自分を客観的に見つめ直し育児にゆとりを持つ機会が得られる場として捉えられていることが示唆され、当初の仮説がほぼ支持される結果となった。