- 著者
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関根 令夫
- 出版者
- お茶の水女子大学
- 雑誌
- 研究紀要
- 巻号頁・発行日
- vol.32, pp.31-49, 2002
多くのスポーツでは,競技を行う上で左利きの選手が優位な場合が多く見られる。しかし,和弓(以下弓道とする)の場合,左射法(的に対して右体側が面するような半身の姿勢。以下,左射法とする)は,ほとんど行われていない。身体的な障害があるような極く少数を除き,伝統的に右射法で,弓を引くことが義務づけられている。弓道において,右射法は,日本文化の継承という意味で当然である。左射法が認められていない具体的な理由は,行射の際,上座に対し背中(尻)を向けることのないようにというしきたりや,団体競技の時の危険性や,審判・競技運営上の問題がその根拠とされている。そこで,早気対応法として,左射法の有効性について考えると,高校生(3年間)や大学生(4年間)という短い選手期間の中で,一度,早気になってしまうと,短期間で早気を克服するには困難である場合が多い。早気矯正法の一つとしての左射法を使う考え方は,中国の弓術書「射学正宗」にみることができる。筆者は,右射法で,早気のために十分な稽古ができない間,左射法で練習をすれば,伸び合いも十分に行うことが出來る(運動学習における転移)と考える。この点に関しては,脳生理学(左右脳の機能差)の研究を待たなければならない。また,アーチェリーにおける狙いの指導の中では,危険性もともなうため,弓を持つ手を利き目で決定したり,利き手が左優位の射手には,左用の弓を使う左射法を考慮しなければならないとしている。弓道においても,アーチェリーのように狙いの危険性から考えても,弓道の利き眼に関しての指導法は,改善されるべき内容である。本研究が,弓道初心者指導方法の基礎資料や効果的な指導方法の一助となれば幸いである。科学的な面も視野に入れ,競技としての弓道・伝統的日本文化としての弓道に寄与できるものと考える。