著者
濱田 浩美 斎藤 礼佳
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2010年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.223, 2010 (Released:2010-06-10)

1. はじめに 摩周湖は、北海道東北部に位置する屈斜路カルデラの一部で、摩周カルデラの凹地に水がたまった湖である。摩周湖は、流入河川、流出河川をもたないため、不純物が運び込まれず、1931年、41.6mの世界一の透明度が観測されたことで知られている。 また、摩周湖は、「霧の摩周湖」で有名である。これは、1966年、歌手布施明が訪れたことのない摩周湖を、想像だけで歌い上げた歌謡曲『霧の摩周湖』がヒットしたことで、「摩周湖=霧、神秘の湖」のイメージが過度に定着したものである。さらに、旅行者の間で「晴れた摩周湖を見ると出世できない、結婚できない」といったジンクスが語られる。これもまた、「摩周湖=滅多に晴れない霧」というイメージを定着させた。しかし、実際には、霧がなく、晴れていて美しい湖を望むことができる日も多いという。 これまでは、摩周湖の霧の発生を検証するためには、現地で摩周湖を目視する必要があり、不可能であった。しかし、2007年12月より、弟子屈町役場が、摩周第一展望台にライブカメラを設置したことにより、その映像によって、現地に赴くことなく、霧を必要期間中観測することが可能となった。そこで、本研究では、1分毎に撮影されるライブカメラの映像を解析し、年間を通し、摩周湖の霧の発生頻度を明らかにすることを目的とした。 また、一般的に、摩周湖の霧は、釧路やその沿岸で発生する海霧が侵入してきたものであるといわれるが、発生要因は明らかにされていない。そこで、霧の発生要因の考察を行った。 2. 研究方法 (1)発生頻度の検証 摩周湖ホームページより配信されている摩周第一展望台に設置されたライブカメラの画像を、フリーソフトSeqDownloadを用いて1分間に1枚ダウンロード保存し、その画像から、視程を読み取った。観測期間は2007年12月28日~2008年11月30日である。画像を14地点に分け、霧により「地点が可視・不可視」を読み取り、霧の発生頻度を求めた。 本発表では、摩周湖の中心部に位置するカムイシュ島(3.0km)をK地点とし、K地点の可視・不可視に重点を置いて検証した。 (2)発生要因の検証 検証には、気象庁アメダス観測所の川湯、弟子屈の気温、風向、風速を収集した。また、インターネットから、毎日午前9時の天気図を収集した。国立環境研究所のGEMS Waterで観測している摩周湖心部の10分毎の水温を用いた。 3. 結果と考察 1日の可照時間中、K地点まで視程のあった時間を100分率で示した。霧発生率ごとの、日数は以下の通りである。 霧発生率x(%) 霧発生日数(日) 0 119 0<x<50 131 50≦x 83 図1に、各月の可照時間中、霧が晴れ、K地点が可視の時間の割合を100分率で示した。 霧によって、もっとも視程が悪化する時間の長い月は、7月、次に、8月で、可照時間中、約半分が霧の発生により不可視である。それ以外の月は、霧が晴れ、K地点が可視の時間が長いことがわかった。とりわけ、秋季、冬季のK地点の可視頻度は20%前後と、低い割合である。 7月、早朝から霧が発生している日が15日を越し、18時に霧が発生している日は20日前後であった。日中に霧が少なくなくなってはいるものの、霧が発生している時間が長い。霧は気温の上がる日中に少なくなり、気温の下がる早朝と夕方に発生することがわかった。11月は、霧の発生した10日未満であった。11月も7月と同様に、早朝に発生した霧が、日中に晴れ、夕方、再び発生することわかった。 夏季に発生する霧は、南東の風によって運ばれた暖かい気塊が冷却され発生する海霧の進入が考えられる。釧路の沖合で発生する海霧は、日本南東の太平洋上から流れてくる暖かく湿った空気が北海道の海面に触れ、冷却されて発生する移流霧と考えられている。海霧との関係を見るために、釧路、鶴居、弟子屈の日照時間を見てみると、摩周湖で霧の発生している日、その3地点の日照時間が0.0時間であった。また、霧の発生している日、第一展望台には南東、南南東の風が吹いていた。このことから、摩周湖に、海霧が侵入したことが考えられる。釧路で日照時間が1.0時間の日の霧については、摩周湖の標高の高さが関係していると考えられる。通常、海霧は、気温の高い市街地で消滅する。しかし、南東の風により、運ばれた暖かく、湿った空気は、摩周湖のカルデラ壁面を上昇する時に断熱膨張し、霧が再び発生する。