著者
斎藤 茂子
出版者
自治医科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

-2SD以下で明らかなGH分泌不全のない低身長患者に対し、インフォームドコンセントを得てミトコンドリアDNA(mtDNA)検査を行った。家族歴のある低身長のみの患者8名、低身長+精神遅滞患者(てんかん合併患者含む)12名、MELAS患者5名(全例低身長あり)、Leigh脳症患者7名(全例低身長あり)、低身長+中枢神経症状+高乳酸血症(MELASやLeigh脳症の画像所見なし)2名の計34名を対象とした。従来、mtDNAの点変異が報告されている塩基部位の変異についてPCR-RFLPを行い、変異の有無を確認した。低身長+精神遅滞(軽度)の患者のうち、母親が糖尿病である例および母親に難聴がある例、それぞれ1名ずつの検体からはmtDNAのシークエンスを行った。MELAS患者の約80%、糖尿病患者の1%に認められるmtDNA塩基番号3243のA-G変異(3243変異)が、MELAS4名(80%)、Leigh脳症1名に認められた。MELAS患者のうち1名は低身長で受診し、高乳酸血症とmtDNA変異が認められ頭痛などの症状出現と脳波異常等をあわせて診断された。低身長のみまたは低身長+精神遅滞の患者では3243変異は認められなかった。シークエンスを行った2例についてもmtDNA変異は見いだせなかった。家族性低身長は多くの遺伝子群が関与する多因子遺伝と考えられ、mtDNA単独では説明できない。しかし、我々の検討で3243変異が発見された症例のうち低身長が主訴である例も存在しており、患者のインフォームドコンセントが得られればmtDNAの検索を行うことが望ましい。また、3243変異は家族性低身長単独の患者の中には認められないものの、糖尿病、MELAS、Leigh脳症といった多様な臨床像を示した。今後この変異によってもたらされる機能障害についての研究をすすめたいと考えている。