著者
斎藤裕
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第57回総会
巻号頁・発行日
2015-08-07

問題と目的 『内包量』とは「長さ」に代表される『外延量』と対置されるもので,「速さ」などが代表的なものである。前者は性質や「強さ」の量であり,後者は「大きさ・広がり」の量である。操作的な違いとして,外延量は加法性を満たすのに対し,内包量は満たさない点に特徴がある。内包量は2つの外延量の商で生み出されるもので,言わば「割合」である。内包量を理解するとは,1.独立性:全体量や土台量の多少に関係なく“強さ”として一定である,2.関係性:2つの量が既知の時に残りの“量”が求められる,3.操作性質:2つ以上の量を合併することはできない-非加法性,の3点を理解すると言えよう。麻柄は,「独立性」の理解を重視し,内包量教育実践の指標として,1)内包量は「全体量÷土台量」で算出されて初めて存在する量ではなく,初めから存在する量であることを強調すること,2)学習の初期には,土台量や全体量と異なる外延量によって暫定的に内包量を定義すること,の2点を挙げている(1992)。しかし,外延量的理解を促せば,「非加法性」に抵触してしまう。この理解は,単に「足せない」だけではなく,『平均』の理解にも関係する。『速さ』は“相加”平均もできないのである。また,内包量も多岐に渡る。松田らは「日常生活の中で経験豊富だから速さのほうが密度より概念獲得が早い」(2000)と述べているが,日常生活が内包量概念獲得に深く関与しているならば,各々の内包量概念は,どのような経験がなされているのかによって,その獲得状況に大きな差異が出てこよう。本研究では,被験者を大学生とし,内包量として「割合」「速さ」「温度」「濃度」「密度」を選び,それらについて“加法性”“平均”及び“関係性の理解(計算操作)”について調査し,彼らレベルにおいて「内包量」についてどのような理解状態にあるのか確認することを目的としたい。方 法 (1)実験の概要:被験者は,2大学保育福祉系学科(A公立大・B私立大)1年生(A;40名・B;60名)。被験者全員に調査問題が配布され,解答が求められる(20分程度)。 (2)調査問題:2種の問題群からなる。1正誤判断問題9問-加法判断3問〔重さ・割合・濃度〕,平均値判断6問〔外延量・平均値・濃度・速さ・密度・温度〕2「外延量の平均」及び「内包量;第1-3用法」に関する計算問題5問;1)外延量-平均2)割合:第1用法3)割合:第3用法 4)速さ:第2用法5)密度:第1用法結果と考察 (1)計算力:2大学で違いが見られた。A大学生は“割合第3用法”でも8割以上の正答率を示した。A大学生は計算力(関係性の理解)は高い。 (2)“加法性”・“平均”の理解:A大学生は「非加法性」3問でも高い正答率を示す。B大学生は全て約50%の正答率でしかない。「重さ」は“水に溶かす”問題であったため,彼らは『非保存的判断』を示した可能性もある。一方,“平均”はややB大学生の方が正答率は低いが,有意な差はなく,両大学生とも特徴的傾向を示している。それは「速さ」「平均の平均」の低い正答率である。これは,「速さ」が生活経験の積み重ねの結果として,特別な『外延量的理解』となっているからではないだろうか。「速さ」は所謂“平均の速さ”である。「平均の平均」も間違うことが象徴的である。「平均」とはいかなる量なのか・内包量としての「平均」値の理解をどう進めるかが,全体して「内包量の理解」の促進の課題であり,その検討を進める必要があると考える。