著者
成田 年 鈴木 雅美 成田 道子 新倉 慶一 島村 昌弘 葛巻 直子 矢島 義識 鈴木 勉
出版者
Japan Society of Pain Clinicians
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.11, no.4, pp.397-405, 2004-10-25 (Released:2009-12-21)
参考文献数
30

神経因性疼痛下ではモルヒネに対する鎮痛作用の感受性が低下することが知られているが, その詳細な分子機構はほとんど解明されていない. 本稿では, 神経因性疼痛下におけるモルヒネの鎮痛作用の感受性低下と神経因性疼痛を含めた慢性疼痛下におけるモルヒネの精神依存形成抑制の分子機構について検討した結果を紹介する. 坐骨神経結紮により, 脊髄後角において protein kinase C (PKC) および脳由来神経栄養因子 (brain-derived neurotrophic factor: BDNF) の免疫活性の増大およびアストロサイトの著しい形態変化が観察された. また, このような変化は非疼痛下でモルヒネを慢性処置することによりモルヒネの鎮痛耐性が形成された動物の脊髄においても認められたことから, こうした変化は神経因性疼痛下におけるモルヒネの鎮痛作用減弱の一因である可能性が示唆された. また, 神経因性疼痛下では, モルヒネの精神依存形成が著明に抑制されることを確認した. さらに, 神経因性疼痛下では, 腹側被蓋野においてγ-aminobutyric acid (GABA) 含有神経上に存在するμオピオイド受容体の機能低下が引き起こされること, また, ドパミン神経上における extra-cellular signal-regulated kinase (ERK) 活性の著明な減弱が引き起こされることが明らかとなった. 一方, ホルマリンの足蹠皮下投与による炎症性疼痛モデルにおいても, モルヒネの精神依存形成は有意に抑制された. この現象は, κオピオイド受容体拮抗薬の前処置によりほぼ完全に消失した. これらのことから, 神経因性疼痛下においては, 腹側被蓋野におけるμオピオイド受容体の機能およびERK活性の低下が, また, 炎症性疼痛下では, 内因性κオピオイド神経系の活性化が主因となり, モルヒネの精神依存形成が抑制されたと考えられる.