著者
金井 成行 岡野 英幸 織田 真智子 阿部 博子
出版者
Japan Society of Pain Clinicians
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.3, no.4, pp.393-399, 1996-10-25 (Released:2009-12-21)
参考文献数
15
被引用文献数
2 7

目的: 肩凝りに対する磁気治療器の効果を皮膚温度, 深部温度, 皮膚血流量など客観的な方法を用いて検討した. 方法: 肩凝りの強い患側とその反対側 (健側) の皮膚温度をサーモグラフィで測定した. また, 磁気治療器の効果は, 二重盲検法により無作為に患者を磁気治療器貼付群とダミー貼付の対照群に分け, 4日間の疼痛, 筋硬結の症状, 皮膚温度, 深部温度, 皮膚血流量を測定した. 結果: 肩凝りを訴える患者は, 肩の強く凝る部位の皮膚温が反対側より低い者 (低温群), 高い者 (高温群), 両側に差のみられない者 (均一群) の3種類に分類され, 罹病期間が短いほど高温群が多く, 罹病期間が長くなると低温群が増加した. 罹病期間1カ月以上の低温群に磁気治療器を貼付すると貼付24時間目から疼痛, 筋硬結の症状が改善されはじめ, 48時間後には皮膚温度, 深部温度も有意の上昇を示した. 血流量の有意な増加は72時間後にみられた. 結論: 磁気治療器は, 患部が低温化した凝りの部位を明らかに改善し, 皮膚温度, 深部温度, 血流量を上昇させた.
著者
濱生 和加子 青木 克 清水 唯男 内田 貴久
出版者
Japan Society of Pain Clinicians
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.7, no.4, pp.403-410, 2000-10-25 (Released:2009-12-21)
参考文献数
8

目的: 特発性顔面手掌多汗症 (多汗症) 患者の心理特性と, 胸腔鏡下交感神経遮断術 (ETS) 後の患者の心理状態を調査し, ETS治療の有効性を検討する。方法: 多汗症患者を対象に, TEG (東大式エゴグラム・第2版), POMS (気分プロフィール検査), MMPI (ミネソタ多面的人格検査) をETS前に施行し3カ月以降に同心理検査とアンケート調査を行なった. 結果: TEGより, 多汗症患者は依存的, 消極的タイプが多いといえるが, 不適応的自我パターンが多いとはいえず, 術後は特に女性で適応的自我パターンに変化した. POMSでは, 多汗症患者に感情的問題が多いとはいえず, 術後に特に男性で気分状態は改善した. MMPIでは,「精神衰弱性」,「偏執性」,「抑うつ性」尺度に高得点を示す症例が多かったが, 術後は減少傾向を示した. 術後アンケートでは, 代償性発汗は全例にみられ, 約40%の患者が日常生活への支障を訴えたが, ETSを受けた患者の約95%は手術治療に対し満足感を表明した. 結論: ETS後, 多汗症患者の自我状態は自己肯定的に変化し, 気分状態も改善するが, 手術適応には, その患者が代償性発汗を受容できるかどうかの見極めが問題となる.
著者
西村 友紀子 森山 直樹 石部 裕一
出版者
Japan Society of Pain Clinicians
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.137-140, 2003-04-25 (Released:2009-12-21)
参考文献数
8
被引用文献数
2

目的: 星状神経節近傍への直線偏光近赤外線照射が手と頭部の体温および血流に及ぼす影響を調べた. 方法: 健康成人20人で二重盲検比較試験を行った. 直線偏光近赤外線治療器 (SUPERLIZER HA-550®, 東京医研) の通常装置と出力0%のダミー器を用い, 日を変えて左側星状神経節近傍に7分間の照射を施行した. 測定項目は, 室温, 両側手掌深部温, 両側第3手指尖表面温, 両側拇指球血流速度, 両側鼓膜温, 左側中大脳動脈血流速度および両側前額部頭蓋内酸素飽和度で, 照射15分前から照射後30分までの各パラメータを連続測定し, 照射開始前, 照射7分終了時, 照射終了から30分後の3時点の値を記録した. 結果: 照射により, 同側の第3手指尖表面温と中大脳動脈血流速度は有意に上昇したが, 対側ならびにダミー群との間にはすべてのデータにおいて有意差が認められなかった. 結論: 左側星状神経節近傍への直線偏光近赤外線照射は, 健康成人の手と頭部の体温および血流に影響を及ぼさない.
著者
千葉 雅俊
出版者
Japan Society of Pain Clinicians
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.14, no.4, pp.410-413, 2007-09-25 (Released:2009-12-21)
参考文献数
13

下顎歯槽部に発症した神経因性疼痛と考えられた症例に対して, 桂枝加市附湯とノイロトロピン®の併用療法が奏効したので報告する. 症例は36歳の女性で, 2年7カ月前に右下顎第一大臼歯の抜髄後に新たな痛みが右下顎歯槽部に発現し, 持続したので当科を紹介された. 右下顎歯槽部に持続的な自発痛があり, 触刺激によりアロディニアを生じていたので, 下歯槽神経損傷に起因する下顎歯槽部の神経因性疼痛と診断した. 漢方医学的には表寒虚証であったので桂枝加市附湯を投与し, ノイロトロピン®を併用した. 約8カ月後に軽度の歯槽部の違和感と歯肉の錯感覚が残存していたが, 痛みは消失した. 抜髄後の神経因性疼痛には, 桂枝加朮附湯とノイロトロピン®の併用を治療の選択肢の一つとして考慮してもよいと考えられた.
著者
石橋 幹子 比嘉 和夫 廣田 一紀 平田 和彦 林 文子 濱田 孝光
出版者
Japan Society of Pain Clinicians
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.10, no.4, pp.505-508, 2003-10-25 (Released:2009-12-21)
参考文献数
10

40歳の男性が第3~第5仙髄神経領域の帯状疱疹を発症した後に排尿障害をきたし, 死亡まで6週間持続導尿を必要とした. この症例では髄液と血清の水痘・帯状疱疹ウイルスに対する抗体価から, くも膜下で水痘・帯状疱疹ウイルスに対する抗体が産生されたことが推測された.
著者
小佐井 和子 宇野 武司 小金丸 美桂子 高崎 眞弓
出版者
Japan Society of Pain Clinicians
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.26-30, 1999-01-25 (Released:2009-12-21)
参考文献数
15

目的: 神経因性疼痛患者に0.05%カプサイシン軟膏を塗布し, カプサイシン軟膏の鎮痛効果と副作用を検討した. 対象と方法: 従来の治療法で除痛困難であった患者12名, 帯状疱疹後神経痛 (PHN) 群6名と神経外傷後疼痛 (外傷後疼痛) 群6名を対象とした. 塗布前, 塗布中, 中止後の痛みの強さを, 0~100の Visual Analogue Scale (VAS: 0=痛みなし, 100=耐えがたい痛み) で比較した. さらに睡眠, 気分, 日常動作の変化, および塗布中の副作用を調べた. 結果: VASの中央値はPHN群で塗布前45, 塗布中10, 中止後10であり, 外傷群で塗布前80, 塗布中40, 中止後50で, 両群とも塗布中および中止後は塗布前に比較して有意に低下した (p<0.05). 睡眠, 気分, 日常動作の改善がそれぞれ42%, 75%, 58%で認められた. 軽度の皮膚剥離を1名に認めた以外, 重篤な合併症は認めなかった. 中止後, PHN群では痛みは変化しなかったが, 外傷群では痛みは少し増強した. 結論: 0.05%カプサイシン軟膏は, PHNおよび外傷後疼痛の治療に有効であることがわかった.
著者
吉田 明子 加藤 正人 谷内 一彦
出版者
Japan Society of Pain Clinicians
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.11, no.4, pp.387-396, 2004-10-25 (Released:2009-12-21)
参考文献数
41

痛みの受容には多くの分子が影響を与えるが, ヒスタミンもその一つである. その作用点は, 一次性求心性神経線維と中枢ヒスタミン神経であるが, H1受容体はおもに一次性求心性神経線維上にあり, 末梢からの情報を脊髄や上位中枢へ効率よく伝達する役目を担っている. また脊髄や上位中枢にはH1受容体やH2受容体が存在して興奮性の作用を共同して担っている. とくに中枢ではH1, H2受容体ともに大脳皮質の機能賦活作用として覚醒や認知機能亢進に関与している. 最近, ヒスタミン関連遺伝子のノックアウトマウスが開発され小動物における生理学的・病態生理学的研究の新たな展開が進んでいる. 本総説では, 抗ヒスタミン薬を用いた薬物研究, 近年開発されたヒスタミン関連遺伝子ノックアウトマウス (H1, H2受容体ノックアウトマウス, ヒスタミン合成酵素ノックアウトマウス) を用いた研究, モルヒネなどのオピオイドと併用した疼痛研究の結果をもとに, 痛みの受容とヒスタミンの関与について概説する.
著者
成田 年 鈴木 雅美 成田 道子 新倉 慶一 島村 昌弘 葛巻 直子 矢島 義識 鈴木 勉
出版者
Japan Society of Pain Clinicians
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.11, no.4, pp.397-405, 2004-10-25 (Released:2009-12-21)
参考文献数
30

神経因性疼痛下ではモルヒネに対する鎮痛作用の感受性が低下することが知られているが, その詳細な分子機構はほとんど解明されていない. 本稿では, 神経因性疼痛下におけるモルヒネの鎮痛作用の感受性低下と神経因性疼痛を含めた慢性疼痛下におけるモルヒネの精神依存形成抑制の分子機構について検討した結果を紹介する. 坐骨神経結紮により, 脊髄後角において protein kinase C (PKC) および脳由来神経栄養因子 (brain-derived neurotrophic factor: BDNF) の免疫活性の増大およびアストロサイトの著しい形態変化が観察された. また, このような変化は非疼痛下でモルヒネを慢性処置することによりモルヒネの鎮痛耐性が形成された動物の脊髄においても認められたことから, こうした変化は神経因性疼痛下におけるモルヒネの鎮痛作用減弱の一因である可能性が示唆された. また, 神経因性疼痛下では, モルヒネの精神依存形成が著明に抑制されることを確認した. さらに, 神経因性疼痛下では, 腹側被蓋野においてγ-aminobutyric acid (GABA) 含有神経上に存在するμオピオイド受容体の機能低下が引き起こされること, また, ドパミン神経上における extra-cellular signal-regulated kinase (ERK) 活性の著明な減弱が引き起こされることが明らかとなった. 一方, ホルマリンの足蹠皮下投与による炎症性疼痛モデルにおいても, モルヒネの精神依存形成は有意に抑制された. この現象は, κオピオイド受容体拮抗薬の前処置によりほぼ完全に消失した. これらのことから, 神経因性疼痛下においては, 腹側被蓋野におけるμオピオイド受容体の機能およびERK活性の低下が, また, 炎症性疼痛下では, 内因性κオピオイド神経系の活性化が主因となり, モルヒネの精神依存形成が抑制されたと考えられる.
著者
柴田 茂樹 福島 浩 柴田 伊津子 澄川 耕二
出版者
Japan Society of Pain Clinicians
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.8, no.4, pp.402-404, 2001-10-25 (Released:2009-12-21)
参考文献数
7

われわれは急性腸炎症状を併発した帯状疱疹症例を経験したので報告する. 症例は60歳, 女性. 右下腹部痛と腰背部痛が出現し, 腹部エコーとCT検査で腸炎が疑われ, 内服治療を受けたが軽快しなかった. 3日後に右Th10領域に帯状疱疹が生じた. 内視鏡検査で同部の粘膜の発赤と浮腫性変化がみられ, 病理組織検査で炎症細胞 (好中球とリンパ球) 浸潤とリンパ濾胞からなる非特異的炎症像が認められた. アシクロビル内服と持続硬膜外ブロックにより, 右下腹部痛, 腰背部痛は消失し, 経過は良好で後遺症を残すことなく退院した.
著者
金子 裕子 村井 邦彦 舛田 昭夫 湯田 康正 槇田 浩史
出版者
Japan Society of Pain Clinicians
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.118-121, 2006-04-25 (Released:2009-12-21)
参考文献数
15

症例: 患者は47歳女性で, 20歳頃より右眼窩深部と右側頭部から後頭部にかけて拍動性の激しい頭痛が出現した. 頭痛は右眼球結膜充血, 流涙, 鼻閉, 嘔吐を伴っていた. 血管性頭痛との診断で, 発症当初より近医で星状神経節ブロック (stellate ganglion block: SGB), トリガーポイントブロック, エルゴタミン製剤頓服等の治療が行われたが, 効果は一時的であった. 右側頭部および後頭環椎関節部の圧痛を認めたため, SGBを2回施行した後, 透視下に右耳介側頭神経ブロック, 右後頭環椎関節ブロックを施行した. ブロック直後より頭痛は消失し, 夜間睡眠も良好となった. 5日後より軽度の右後頭部痛が再び出現したが, SGBとエルゴタミン製剤の内服により改善した. 以後1年以上の間, 頭痛発作は生じていない. 結語: 群発頭痛に対し, 耳介側頭神経ブロックと後頭環椎関節ブロックの併用が有効であった.
著者
森脇 克行 Syafruddin GAUS 須山 豪通 弓削 孟文
出版者
Japan Society of Pain Clinicians
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.127-136, 2003-04-25 (Released:2009-12-21)
参考文献数
51

複合性局所疼痛症候群 (CRPS) では, 疼痛, 温度上昇, 浮腫, 関節可動域制限などの症状に伴って骨関節病変がしばしば認められる. 組織損傷後の骨病変として歴史的には Sudeck の骨萎縮と Charcot 関節が知られているが, これらの骨病変はCRPSの骨病変と同一の発生メカニズムによる可能性がある. 近年, 骨代謝の分子生物学が進歩し, CRPSの骨病変を分子生物学的に解明する糸口が見えてきた. 本稿では, 新しい知見をもとに, 骨病変と感覚神経から神経原性に放出されるニューロペプチド, 交感神経活動, 組織障害後に放出されるサイトカインや不動化との関係について考察した. 骨病変のメカニズムの解明はCRPSの病態生理学の理解と治療法の開発に有用と思われる.
著者
菅野 浩子 薦田 恭男 野坂 修一
出版者
Japan Society of Pain Clinicians
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.105-107, 1996-04-25 (Released:2009-12-21)
参考文献数
7

内服薬物療法が無効であったメニエール病患者に, 星状神経節ブロック療法を施行した. 初診時より内服は中止し, 1%メピバカイン5mlによる星状神経節ブロックを週2~3回開始した. 10回目終了時よりめまい発作と耳閉感が消失し, 右耳鳴のみとなった. 16回目終了時に右耳鳴も消失し, 20回目終了時より自覚的に聴力の左右差は消失した. ここでオージオグラムを施行したところ, 星状神経節ブロック療法開始時にみられた感音性難聴が改善されていた. 21回目終了したところで, 星状神経節ブロック療法は終了とした. その後, 妊娠を契機にメニエール病が再発したが, その時点では治療せず, 出産を待って星状神経節ブロックを施行した. 13回目のブロック終了時にはオージオグラム改善, 15回目終了時には左耳鳴を残すのみとなり, めまい発作は消失した. 妊娠による循環血液量の増加がメニエール病の再発につながったと考えられる. また, メピバカインは胎盤通過性は高いが, 組織への分配係数が非常に小さく, 胎児組織に取り込まれにくい. このため, 妊娠中であっても, 必要であれば星状神経節ブロック療法を試みてもよいと考えた.
著者
田中 明美 津田 喬子 竹内 昭憲 笹野 寛 前田 光信
出版者
Japan Society of Pain Clinicians
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.26-32, 2003-01-25 (Released:2009-12-21)
参考文献数
23

慢性難治性疼痛に, 他の要因による疼痛や心的外傷が加わったことを契機にして薬物依存に陥った2症例の治療を経験した. 症例1は38歳男性, 指の再接着術後の断端痛による慢性疼痛を抱えていたが, 転院を契機に右上肢の痙攣を伴う疼痛性障害が増悪して薬物依存になった. 症例2は56歳男性, 椎間板ヘルニアの手術後の failed back syndrome として慢性疼痛を治療していたところ, 交通事故による頸椎挫傷後に上下肢の痙攣を伴う疼痛性障害を発症して薬物依存になった. 両症例とも過去の他院麻酔科治療歴から, 神経ブロック治療による除痛が困難であると判断して薬物依存を絶つことに治療目標をすえ, 交感神経ブロック療法に加えて心理療法により病状の理解と疼痛の認知を行い, 定期的に通院治療を続ける適正な痛み行動へと導いた. その結果, 両症例は慢性疼痛を受容して, 薬物に依存する行動がみられなくなった. 慢性疼痛患者の疼痛制御には, 心理テストの結果を踏まえた心理療法が適切に行われるべきである.
著者
裏辻 悠子 入江 潤 森川 修 伊福 弥生 末原 知美
出版者
Japan Society of Pain Clinicians
雑誌
The journal of the Japan Society of Pain Clinicians = 日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.18, no.4, pp.361-366, 2011-09-25

各種有痛疾患(n=456)にトラマド-ルをシロップ製剤として経口投与し,鎮痛効果,至適維持量,副作用,安全性を検討した.痛みの程度が5段階の言語式評価スケール(verbal rating scale:VRS)で3以上の症例を検討の対象とした.トラマドールを0.5-2 mg/kg/日(分2-4)で服用を開始し,2日から84日後まで服用量を調節した.トラマドールの服用量は20-450 mg/日であった.全体の50%の症例で,痛みはVRSで2以下になった(38.2%は痛みが軽快し,トラマドールの服用が不要になり,11.8%ではトラマドールを服用し,痛みが軽減していた).トラマドールは,帯状疱疹,帯状疱疹後神経痛で有効例が多く,複合性局所疼痛症候群,血管病変,がん性痛では,他の薬剤や治療法へと変更した症例が多い傾向であった.トラマドールの服用後に,嘔気・嘔吐,ふらつき,便秘が生じたのは全体平均で2-12%であったが,重篤な副作用はなかった.トラマドールでは,侵害受容痛,神経障害痛ともに良好な鎮痛効果が得られたので,各種難治性の痛みの治療法の一つとして,幅広い臨床応用が期待される.
著者
滝本 佳予 西島 薫 森 梓 金 史信 小野 まゆ
出版者
Japan Society of Pain Clinicians
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
2016

全身の痛みを中心とする多彩な症状を訴え心因性多飲を合併する患者に対し,薬物療法・認知行動療法と併せて行った,患者の語りの傾聴と対話を重視した診療が有用であった1例を報告する.症例は68歳の女性,全身の痛みを訴えて当科を紹介受診した.併存合併症として心因性多飲による低ナトリウム血症と意識混濁,むずむず脚症候群,過敏性腸症候群,睡眠障害,失立失歩があり,ドクターショッピングを長年続けた後の受診であった.患者の語りの傾聴と対話により,まず心因性多飲が改善した.次いで痛みの訴えを線維筋痛症・中枢感作性症候群と診断し薬物療法・認知行動療法を実施したところ,ドクターショッピングをやめ症状も軽減した."説明不能な"痛みの訴えはペインクリニックではたびたび遭遇する.器質的原因が明確ではない疾患の症状を一元的にとらえ,診断治療を行う役目を果たすためには,患者との語り合いにも問題解決への可能性があることが示唆された.
著者
益田 律子 井上 哲夫 横山 和子 志賀 麻記子
出版者
Japan Society of Pain Clinicians
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.6, no.4, pp.397-402, 1999-10-25 (Released:2009-12-21)
参考文献数
11

モルヒネによる癌性疼痛治療中の眠気に対し, 塩酸メチルフェニデートを用い, 著しい生活の質 (quality of life) 改善が得られた4症例を経験した. いずれもモルヒネによる除痛効果は不十分であるにもかかわらず, 眠気のためにモルヒネ増量が困難な症例であった. 少量の塩酸メチルフェニデート (10~20mg/day) によって得られた効果は, (1)日中の傾眠と夜間覚醒の是正, 睡眠型の正常化, (2)夜間の不安, 恐怖の消失, (3)モルヒネ至適量投与による無痛, (4)摂食・歩行・会話など日常行動型の改善であった. 使用期間は7~50日間で, 明らかな副作用を認めなかった. 少量の塩酸メチルフェニデート投与はモルヒネ治療中の末期癌患者における生活の質 (quality of life) 改善に寄与する.
著者
増田 豊
出版者
Japan Society of Pain Clinicians
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.42-47, 1994-04-25 (Released:2009-12-21)
参考文献数
11

The effect of stellate ganglion block (SGB) on peripheral facial palsy were studied by comparing the results of electroneuronography (ENoG), palsy score (40-point scoring method) and the period from onset to initial block and recovery. The subjects were 114 patients with Bell's palsy and Hunt syndrome who were treated in our department within 14 days after onset.Of the 114 patients, 102 patients had a response to ENoG of 5% or greater and 97% among these caces revealed complete recovery. On the other hand, 12 patients had a response of 4% or less of normal and 67% of those showed unsatisfactory recovery of function. In addition, 8 patients had mild to moderate sequela.In conclusion, excellent therapeutic cure rate of facial palsy was obtained by SGB. More earlier treatment of SGB shortened the period of recovery and diminished the drop of ENoG value. From electrophysiological examination, it was suggested that SGB prevented the progress of the nerve degeneration and accelerated the recovery of injured nerve.
著者
横田 敏勝 檀 健二郎 小山 なつ
出版者
Japan Society of Pain Clinicians
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.112-118, 1998-04-25 (Released:2009-12-21)
参考文献数
39

After chicken pox, varicella-zoster virus (VZV) establishes latent infection in satellite cells in sensory ganglia and eventually reactivates as acute herpes zoster (AHZ) or shingles. The reactivation leads to infection of other cells within the ganglion and results in inflammation of the posterior spinal cord, peripheral nerve and skin. Pain in AHZ is primarily due to inflammation of the infected structures. Epidural block soothes inflammation in the epineurium and controls the ongoing afferent barrage in the affected nerve fibers, preventing sensitization of second order neurons.Postherpetic neuralgia (PHN) is the commonest and perhaps most-dreaded complication of AHZ. Pain of PHN is often of three types; ongoing pain, superimposed paroxysmal pain and allodynia. An ongoing pain is described as burning, aching or tearing, and a superimposed paroxysmal pain as stabbing or electric shock-like. For many patients, sensations evoked by clothes contact or skin stretching with movement constitute the most unbearable part of PHN. There are sensory deficits affecting all modalities in the involved dermatomes, indicative of partial deafferentation. Intravenous lidocaine produces significant relief for PHN, and pain relief with topically applied lidocaine has also been reported. It is likely that ectopic impulses are generated from surviving axons and induce hypersensitivity of second-order neurons.The ectopic impulses are abolished by concentrations of lidocaine much lower than that required for blocking normal axonal conduction. Unfortunately lidocaine is not always effective. Thus deafferentation hyperactivity of second order neurons is another possible explanation.Allodynia is most often elicited by innocuous moving stimuli, and the mechanical allodynia appears to be mediated by large fibers. This implies abnormal synaptic connectivity at the spinal-cord level between large afferent fibers and the central pain signaling secondary neurons. It has been hypothesized that deafferentation of nociceptive fibers leads to vacancies at the level of second-order neurons, enabling these neurons to create new working synaptic connections with surviving large fibers. This reorganization may involve WDR neurons. Then the wind up response of WDR neurons which normally occurs in response to repetitive C fiber stimulation through activation of NMDA receptors, may be brought about by large fiber inputs. This may account for the wind up of tactile allodynia in PHN.
著者
十時 忠秀 森本 正敏 谷口 良雄 平川 奈緒美 谷口 妙子 峯田 洋子 加藤 民哉 原野 清
出版者
Japan Society of Pain Clinicians
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.3-11, 1994-04-25 (Released:2009-12-21)
参考文献数
12

(1) 遺体で星状神経節の位置を肉眼解剖学的に検討したところ, 大部分の例で, 第1胸椎の高さで肋骨頸部に位置していた.(2) 星状神経節節前線維の起始細胞は第1胸髄から第10胸髄まで認められた.(3) 星状神経節の節後線維が分布する皮膚領域は, C3~T12で, 最も多く分布している領域はC6~T5であった.(4) 心臓における交感神経支配は, 両側性で, 中頸神経節の関与が最も多く, 星状神経節の遠心性線維は, 主に洞房結節, 心房に終止していた.洞房結節に至る遠心性線維は, 右の中頸神経節および星状神経節からの方が多く, 右の星状神経節ブロックの方が, 左のブロックよりも心拍数, 心リズムに与える影響が多いと思われた.(5) 内頸および外頸動脈には, 星状神経節の節後線維は分布しておらず, 主に, 上頸神経節の節後線維が分布していた.(6) 上腕骨の骨髄には, 星状神経節の節後線維が多数分布していることがわかった.(7) 星状神経節には感覚神経が投射していることがわかった.(8) 上頸神経節, 中頸神経節, 星状神経節には, 相互投射があることがわかった.(9) C6-SGBは, 上頸, 中頸神経節ブロックが適応となる顔面, 頭部の疾患に, C7-SGBは, 上肢の交感神経遮断が必要な疾患に行った方がよいと考えた.
著者
加藤 佳子 山川 真由美 長岡 由姫 加藤 滉
出版者
Japan Society of Pain Clinicians
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.25-28, 2005-01-25 (Released:2009-12-21)
参考文献数
7
被引用文献数
3

1988年から2004年3月までの16年間に,「WHO方式がん疼痛治療法」に準じて100人以上の非がん性疼痛患者にモルヒネによる疼痛治療を行った. そのうち1年以上モルヒネの内服治療を継続した患者は16人, 原病の進行によって死亡した2人を除いた14人は現在も内服を継続中である. 最長例は骨粗鬆症・圧迫骨折の疼痛を治療中の全身性エリテマトーデス (SLE) 患者で13年である. モルヒネの服用量は, 痛みが強くなって増量しても, 痛みが軽減するとすべての患者で必ず減量できた. また痛みの変動がなければモルヒネ必要量は長期間変化しなかった, 病状の変化に対応して服薬指導を繰り返し,「痛みの自己管理」へ導くことによって, モルヒネによる治療は長期間にわたって確実で安全な除痛法となる.