著者
山﨑 奈穂子 新出 ちはる 粂井 貴行 炭田 康史
出版者
日本化粧品技術者会
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.25-32, 2016-03-20 (Released:2017-03-21)
参考文献数
10
被引用文献数
2 2

われわれはリン脂質の構造特性に着目し,その疎水基の膜流動性とリン脂質と共存する物質の角層への浸透性の相関について検討した。膜流動性とは,アシル基の流動性のことを指し,リポソームの2分子膜の親水基近傍や疎水基部のブラウン運動を反映していると考えられている。さらにリポソームと角層細胞間脂質成分との相互作用を評価し,角層浸透メカニズムを確認した。最初に,アシル基が飽和脂肪酸からなるDPPC,不飽和脂肪酸からなるDOPC,1分子中に,飽和,不飽和脂肪酸の両方を有するPOPC,DPPCとDOPCを,1:1のモル比で混合した脂質成分(DP+DO)の計5種類のリポソームを調製した。疎水基部位の膜流動性と共存する水溶性成分の角層への浸透性の相関を確認した結果,膜流動性が高いPOPCおよびDOPCは角層への浸透性が高く,膜流動性が低いDPPCは角層での浸透性も低かった。次に,各リン脂質が角層細胞間脂質の膜流動性に与える影響を評価した結果,各リン脂質の疎水基部位の膜流動性と相関関係が示唆され,POPCが最も高い影響度を示した。以上から角層への浸透性において,リン脂質の不飽和脂肪酸は重要な因子であるが,POPCのように1分子中に不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の両方が存在し,かつ膜形成において交互に並ぶ構造が,特に効果的に角層細胞間脂質の膜流動性に変化を与え,角層における浸透性を促進すると考えられる。