著者
新谷 寛
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

ガラスは工業的に非常に重要であるが、ガラス転移転移の基礎的メカニズムに対する回答は未だに得られていない。この問題に対し我々は、「局所安定構造形成による短距離秩序化」と「結晶化による長距離秩序化」との競合によるフラストレーションが過冷却液体には存在し、それがガラス転移現象の本質と深く関わっているという「二秩序変数モデル」を提案している。そこで、相互作用ポテンシャルに上記のフラストレーションを導入することで、結晶化からガラス化までを続一的に扱えるモデルを構築した。ガラスには、ガラス転移現象の他にも、ボゾンピークと呼ばれる未解決問題が存在する。ボゾンピークとは、THz領域に存在する、デバイの状態密度(低温での結晶の振動状態密度を良く記述できるモデル)よりも過剰の振動状態密度である。しかし、ボゾンピークがガラス転移現象と関連があるのかどうかや、その起源に関しては未解明のことが多い。我々は、前述したモデル用いて、分子動力学シミュレーションを行った。このモデルの圧力やフラストレーションを制御することで、ボゾンビーク振動数を幅広く変化させ、系統的に研究することにより、ボゾンピーク振動数と横波の音波の Ioffe-Regel limit(ガラスのランダムネスの影響のため、音波が強い散乱を受け伝播できなくなる振動数)とに深い相関があることを発見した。さらに、この事実は次元性やポテンシャルの詳細によらない普遍的なものであることも明らかにした。このことは、ガラス(非晶質)の振動ダイナミクスの理解に大きく寄与するものと考えられる。