著者
セラフィム レオンA. 新里 瑠美子
出版者
The Linguistic Society of Japan
雑誌
言語研究 (ISSN:00243914)
巻号頁・発行日
vol.2005, no.127, pp.1-49, 2005-03-25 (Released:2007-10-23)
参考文献数
66

古代沖縄語のス=siの係り結びと古代日本語のコ乙ソ乙=kosoの係り結びは,已然形で結ぶ強調表現であるところが類似するが,積極的に比較研究されることは少なかった.本稿においては,両者を比較し,日本祖語における原形を*ko#swo(指示詞の*コ乙+形式名詞の*ソ甲)と再構する.そして,有坂第一.法則の適用で,甲類のswoが,先行する乙類のoに母音調和した結果,古代日本語では,kosoとなったと仮説する.ソ甲の部分が甲類で,形式名詞であったとの見解は,従来の近称のコ乙+中称のソ乙との語源と相容れないが,その裏づけとして,(1)沖縄最古の辞書『混効験集』の知見,(2)西日本方言に痕跡を留める形式名詞のス・ソ,(3)機能論,文法化理論の観点からの論証を挙げる.更に,コ乙ソ乙(沖縄ス=si)とカ(沖縄ガ)の係り結びを対照させ,両者の結びがrealisとirrealis(古代日本語は多くが推量の助動詞-(a)m-)に対応する意味を認知論的に考察し,また指示詞から係助詞のようなfbcus particleへの移行は世界の言語の文法化のデータにも合致する点を指摘する.
著者
新里 瑠美子 セラフィム レオン・A
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.7, no.4, pp.83-98, 2011-10-01

本稿は、沖縄語と上代日本語との比較分析を通し構築した筆者らの係り結び仮説(日本祖語形再建、類型、成立、変遷など)の妥当性を琉球弧の方言群において検証することを目的とする。本稿で焦点を当てた|ga|の係り結び仮説では、その類型として、Type I(文中|ga|といわゆる未然形の呼応)、Type II(文中|ga|と通常連体形の呼応)、係助詞の終助詞用法を考え、各々、自問、他問、他問と特徴づけた。検証の結果、国頭久志(くにがみくし)方言でTypeIとTypeIIの類型と機能が仮説と合致、疑似終助詞用法がTypeIIの文法化と解釈できると述べた。徳之島井之川(とくのしまいのかわ)、国頭辺野喜(くにがみべのき)・漢那(かんな)、八重山鳩間(やえやまはとま)方言においては、終助詞用法の|ga|の清濁の異音に関し、見解を提示した。鳥島(とりしま)方言では、構文はType II、機能はType Iという用法について新たな音変化を提案し、反証とならないと論じた。宮古西里(みやこにしざと)方言の構文と機能のずれについても、仮説擁護を試みた。最後に、今帰仁(なきじん)方言の|kuse:|=コソの通説に異を唱え、その成立に|ga|が関わったとの仮説を述べた。