著者
新開 由香理
出版者
公益財団法人 損害保険事業総合研究所
雑誌
損害保険研究 (ISSN:02876337)
巻号頁・発行日
vol.79, no.2, pp.171-193, 2017-08-25 (Released:2019-04-10)
参考文献数
42

高次脳機能障害者の就労支援や自動車運転技能の判定に神経心理学的検査を用いた国内論文を収集し,高次脳機能障害者の社会適応能力を推測するにあたって神経心理学的検査をどのように捉えるべきかについて専門諸家の意見をまとめた。 高次脳機能障害者の就労群と非就労群の比較や自動車運転再開判定に用いられる神経心理学的検査は,Trail Making Test Part A(TMT-A),Trail Making Test Part B(TMT-B)を有意とする報告が共通して多かった。自動車運転再開判定においては,机上の神経心理学的検査を用いた評価から実車評価へ進む際の明確な基準は未だないが目安となる値を示す報告が散見された。 高次脳機能障害者の社会生活適応にあたり,その障害度を評価するには,運動機能障害や発語に関する問題,基本的な生活習慣の確立や対人技能,自分の障害を認知することなどが重要で,神経心理学的検査だけで障害度を推定することはできないが,神経心理学的検査は,認知機能障害を数値化する点が有用であると考える。そして自動車運転再開判定における実車前のスクリーニングとしての目安値は,自動車運転が高度な認知機能を必要とすることや社会復帰をする上で重要な移動手段となる点などから,高次脳機能障害者の社会生活の適応を推定するための一つの参考になるものと考える。しかし,神経心理学的検査だけでは,高次脳機能障害の全体像を捉えることはできないことに留意する必要がある。