- 著者
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山本 啓太
- 出版者
- 公益財団法人 損害保険事業総合研究所
- 雑誌
- 損害保険研究 (ISSN:02876337)
- 巻号頁・発行日
- vol.78, no.3, pp.81-109, 2016-11-25 (Released:2019-04-09)
- 参考文献数
- 3
平成26年の保険業法改正によって意向把握義務及び乗合代理店等に対する推奨販売ルールが導入された。これは来店型保険ショップ等の増加といった保険募集チャネルの多様化や大型化など,保険募集を巡る環境の変化に対応できるようにするための見直しとのことである。確かに,適合性原則の具体化を論ずる中で導入された意向確認書面はその本来の機能を果たしておらず,また,来店型の大規模乗合代理店の中には,「公平・中立」を標榜しながら,実際には手数料の高い商品を顧客に勧めるという現状は改善の必要がある。この点,今回導入された意向把握義務及び推奨販売ルールは,いずれも顧客の意向に焦点を当てたものであるが,そこでいう意向,言い換えれば,顧客のニーズがどのようなものをいうのかについて,十分な議論がなされていないように思われる。
保険業法上,「意向」という用語は,意向確認書面において初めて使われたものであるので,まずは意向確認書面導入時に「意向」というものがどのように議論されていたのか,意向確認書面において確認すべき「意向」と意向把握義務において把握すべき「意向」が同一でよいのか,更に,意向把握義務でいう「意向」と推奨販売ルールにおける「顧客の意向に沿った商品選別・推奨」でいうところの「意向」との関係はどのように整理されるべきなのか,について分析することとしたい。
最後に,施行されたばかりではあるものの,意向把握・確認義務及び推奨販売ルールの再整理の方向性についても考えてみることとしたい。