著者
新飯田 宏
出版者
横浜国立大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

本研究では、まず不当廉売における不当性の評価基準として、(イ)資源配分の効率性、(ロ)企業行動の戦略的効果の2つの観点から理論的にアプローチすることを意図し、簡単な寡占モデルによって競争政策に適用可能なルールの導出を検討した。その結果、次の点が明らかとなった。(【i】)資源配分の最適性を保証するように、限界費用に価格を等しくするように価格を値下げしても、それが一時的な値下げである限り、何ら社会的厚生を増大させることはない。したがって、特定の廉価販売を単純な短期の価格・費用の関係から、不当廉売に関する判断基準を作成することは不可能である。(【ii】)不当廉売の問題で重要なのは、その廉売が相手企業の戦略行動を予想した長期にわたる動態的プロセスであり、戦略的最適化の問題である。そこで廉売を潜在的参入者の参入阻止と、相手企業のシェア拡大阻止を狙う行動としてみたとき、不当廉売の判断基準として、(1)価格は限界費用以下ではならない(限界費用ルール)、(2)価格は総平均費用以下ではならない(平均費用ルール)、(3)新規参入の後、既存の企業は参入前の産出量以上に生産してはならない(生産量制約ルール)の三つを理論的に検討した結果、社会厚生最大の観点からは、産出量制約ルール>限界費用ルール>平均費用ルールの順で望ましいことがを明らかとなった。しかし、不当廉売を行っている企業が周辺企業に印象づけている"評判"という"情報"としての機能を考慮すると、競争政策として比較的コストを少なく不当廉売規制を行うとすれば、何が望ましい政策かが次に問題となる。現実の不当廉売問題と上記の理論的な結果を併せ考慮すると、「すべての廉価販売をまず自由に認め、その上で資源配分の効率性を高めるように、原則として相当期間、廉売商品について元の価格以上に戻ることを認めない条件を付するのがよい」というのが結論である。