著者
日比野 誠恵 堀 進悟
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.12, pp.925-934, 2010-12-15 (Released:2011-02-09)
参考文献数
23
被引用文献数
1

米国救急医学の歴史的背景,現状(法整備,統計指標,診療体制,他職種の関与,ワークライフバランスと女性参加,病院経営との関係),更に問題点をまとめ,本邦に導入されつつあるER型救急医療と比較した。米国救急医学は1960年代に誕生し,組織化され,専門医資格,研修制度を獲得し,現在では約4万人の救急医が全米で働き,社会のセーフテイネットとして機能している。米国救急医学が発展した理由は,医療需要に合致する救急医療モデルであったこと,そして完全シフト制と待遇に配慮して救急医を多数獲得し,組織化により診療以外にも教育,研究体制を整備したことによる。本邦のER型救急医療は1990年代に誕生し,大都市を中心に普及しつつあるが,未だ黎明期にあるため救急医の数も少なく,業務も入院診療を担当し,したがって完全シフト制ではない場合があり,米国救急医学と同一の内容ではない。一方,本邦のER型救急医療と同様に,欧州でも同様に米国救急医学を導入する潮流があり,都市型救急医療需要への対応は先進国に共通した現象と考えられる。米国救急医学の歴史を振り返ると,ER型救急医療を発展させるためには,救急医の質の標準化,ワークライフバランスを考慮した人的資源の獲得が重要と考えられる。