著者
日高 直保
出版者
日本質的心理学会
雑誌
質的心理学研究 (ISSN:24357065)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.51-62, 2021 (Released:2021-04-12)

近年日本では,AYA世代のがんサバイバーに対する注目が高まっている。AYA 世代のがんサバイバーは,医療的問題だけでなく教育や就労など社会的問題にも直面しており,がんサバイバーの視点をふまえた問題理解が望まれている。そこで本研究では,AYA 世代のがんサバイバーである K さんを対象としたインタビューを行い,個別性を尊重した情報を得ることを目指した。具体的には,インタビューを通じて得られたデータをライフヒストリー法によって再構成し,Kさんの経験を記述した。また,記述した経験をもとに,K さんのレジリエンスについて考察した。分析を通じ,入院生活を送る中で生命や自立性を脅かされる状況に直面し,恐怖や葛藤を感じながら,他者と関係する中で自立を目指す K さんの姿が描き出された。また,K さんのレジリエンスとして,家族や看護師,友人といった周囲の人々からの関わり,経験に肯定的な意味を見出す力,そして出来事に潜む肯定的な可能性を具現化する力の存在が挙げられた。
著者
日高 直保
出版者
国立大学法人 大阪大学大学院人間科学研究科附属未来共創センター
雑誌
未来共創 (ISSN:24358010)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.69-84, 2021 (Released:2021-07-08)

本稿では、人間のレジリエンスとナラティヴの結びつきを明らかにすることで、人間のレジリエンスについて理解を深めることを目指した。人間のレジリエンスにおいては、「意味の行為」という概念により示される、個人が自らの経験を意味づける行為、およびそれにより生み出されるナラティヴが、重要な要因であると考えられた。個人が危機に直面した際、その状況を理解し、適応すべく取られる行為が「意味の行為」であり、人間のレジリエンスと「意味の行為」は深く結びついているのである。また、人間のレジリエンスとナラティヴが結びつく背景として、ナラティヴが生成変化を続けるものであり、経験をネガティヴに意味づけたことによる不適応も、ナラティヴの再構成によってこそ変化しうる可能性を指摘した。加えて、ナラティヴは個人が望む行為を実行する上で必須であると同時に、個人の世界観や自己観を生み出し、人間がレジリエンスを発揮する基盤を作り上げる存在でもあると考えられた。