著者
早川 万年
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

平成9・10年度の二カ年にわたり、岐阜県内の各遺跡において出土している古代の文字資料(墨書土器・ヘラ書き土器)の調査・検討を試みた結果、約180点の資料を見出すことができた。それらのうち三分の一程は、報告書等に未掲載のものである。岐阜県の出土文字資料の特色は、次の二点である。(1)、美濃須衛窯に代表されるように、有力な古代の窯があり、土器の生産地側の資料が比較的多く見られること。(2)、官衙・集落からの出土例は数少ないが、それでも8世紀後半から9世紀の資料が比較的多く、吉祥語句を書くものがしばしば見られる。(1)については、とくに各務原市・関市の資料に注目でき、焼成前にヘラ書きで人名を記す例として、関市の榿ノ木洞窯出土の「御使連」「馬使貞主」などがある。土器の製作主体となったと思われる氏族の居住が判明した。(2)については、美濃国府(垂井町)・推定武義郡衙(関市)などからそれぞれ数点、「里刀自」墨書土器が東山浦遺跡(富加町)、「東」墨書土器が三井遺跡(各務原市)が出ていることに注目できる。研究報告書においては、榿ノ木洞窯の「馬使貞主今日卅上」から、律令制以前に美濃に置かれた馬飼の存在を想定し、灰釉陶器が焼かれた時期である9世紀後半頃に、中央政府との結びつきからこの地に官営工房的な施設が設けられていたこと、また、三井遺跡の「東」については、住居の竈にこの墨書土器が置かれていたことから、大陸伝来の道教的な思想から竈の祭祀がなされていた可能性があること、さらに、御嵩町の「岡本」銘須恵器から、尾張からのヘラ書き土器の流入について論じた。