著者
春木 孝子
出版者
神戸松蔭女子学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

中世から現代にいたるアイルランド文学史における女性表象の変遷を、それぞれの歴史的、社会的、政治的な時代背景との関連において明らかにすることが報告者の主要な研究テーマであるが、その目的は日本ではまだあまり取り上げられていない英語を媒体とする女性詩人や劇作家・小説家のみならず、アイルランド語を媒体とした女性詩人を取り上げることにあり、3年間の期間内においても出来得る範囲で積極的にゲール語(アイルランド語)で書かれた文献を研究の範囲に入れるということを大きな目標として研究を進めてきた。そのため、アイルランド語の研鑽にかなりの時間を投じ、京都アイルランド語研究会のメンバーと共に中級文法書の翻訳を完成させるという形でもその成果はあがったが、特に、現代詩人のモーイラ・ヴァッカンツイーの哀歌を読み、分析するにあたって、歴史的また伝統的な背景にまでさかのぼった視点を持つことができたということが大きな成果であった。その一方で、20世紀初頭の文芸復興期以降のアイルランド文学における女性表象の大きな変化については、リアム・オフラバティーの小説に関しての論文「存在の矛盾そして狂気」のなかでだけではまだ十分に論じることができず、さらに「男の幻想と女の現実のはざまで」という枠組みでとらえ、「リアム・オフラバティーの女性表象」というタイトルで現在、論文を執筆中である。