著者
是枝 喜代治
出版者
NPO法人 日本自閉症スペクトラム支援協会 日本自閉症スペクトラム学会
雑誌
自閉症スペクトラム研究 (ISSN:13475932)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.23-33, 2014-05-31 (Released:2019-04-25)
参考文献数
45

ASD 児者の身体運動面の問題はASD を特徴づけるものとはいえない。しかし,旧来から身体的不器用さの存在や協調運動の弱さなど,ASD 児者の発達期における運動機能の偏りなどが指摘されてきたことも事実である。本稿では,特に発達の過渡期にあたる乳幼児期から学齢期にかけて生じることの多い身体運動面の偏りについての特徴を探るため,群馬県及び埼玉県自閉症協会の協力を得て,ASD 児者を養育してきた保護者に対し,アンケート調査を実施した。運動面の偏りに関する設定項目における選択式の回答結果や,保護者から得られた自由記述の分析から,ASD 児者の多くに身体的不器用さや姿勢制御の問題など,運動面の偏りが見られることが明らかとなった。とりわけ身体運動と関連した社会性やコミュニケーションの問題は,学齢期における「体育」などの集団活動の中で顕在化しやすく,自尊心の低下などから生じる二次的な問題へと発展していく可能性があり,具体的な支援策を検討していくことの必要性などが示唆された。なお,本研究では対象者の併存症等に関する調査及び検討は実施してないことを付記しておく。
著者
是枝 喜代治
出版者
東洋大学ライフデザイン学部
雑誌
ライフデザイン学研究 = Journal of Human Life Design (ISSN:18810276)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.265-282, 2014

近年、在籍するすべての子どもが一人ひとりの教育的ニーズに沿った支援を受ける権利を保障する「インクルーシブ教育」への関心が高まりつつある。インクルーシブ教育は普通学校の中で、障害のある子どもが健常児と共に教育を受けることを基本としている。本研究では、1980年代以降、インクルーシブ教育を先導的に取り入れてきたイギリスの学校現場を訪問し、インクルーシブ教育のシステムや具体的な支援の現状について実地調査を行った。調査期間は2013年9月1日から9月8日までである。 特別支援学校の視察では、多様なニーズを抱える子どもに対し、個々人の特性やニーズに応じた個別のカリキュラムが用意され、各クラスにICT機器などが積極的に導入されていた。特に、スイス・コテージ・スクールでは、近隣の学校教員の研修のシステムが充実していた。また、インクルーシブ教育の具現化に向けて開設されたEducation Villageの視察では、障害のある子どもとない子どもがさまざまな教育の場を共有し、相互の交流が進められていた。 一連の実地調査から、日本におけるインクルーシブ教育システムの普及と共に包括的な教育システムを構築していくことの必要性などが示唆された。