著者
松本 好 榎本 大貴 井上 雅彦
出版者
NPO法人 日本自閉症スペクトラム支援協会 日本自閉症スペクトラム学会
雑誌
自閉症スペクトラム研究 (ISSN:13475932)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.61-67, 2021-02-28 (Released:2022-02-28)
参考文献数
13

本研究では、通所施設への通所が困難となった事例において、家庭訪問支援として子どもおよび母親へ介入することで、子どもの行動上の問題の改善や新しい行動の獲得、母親の養育行動の獲得や養育ストレスの変化を検討した。介入は、機能的アセスメントに基づく子どもへのコミュニケーション指導、母親へのペアレント・トレーニングおよび日常生活の助言、通所施設への移行支援であった。その結果、家庭という日常生活場面で支援を行うことにより、子どもの行動上の問題の減少とコミュニケーション行動の獲得、子どもに対する母親の育児ストレスの改善に及ぼす効果があり、通所施設への通所が可能となった。一方で、母親自身の孤立感ついては変化がみられず、通所施設での継続支援を要する可能性が示唆された。
著者
井上 雅彦 奥田 泰代
出版者
NPO法人 日本自閉症スペクトラム支援協会 日本自閉症スペクトラム学会
雑誌
自閉症スペクトラム研究 (ISSN:13475932)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.15-20, 2020-09-30 (Released:2021-09-30)
参考文献数
15

発達障害の親であり親のための相談者であるペアレント・メンターが、自らの体験の語りについて、聞き手である他者との関係の中でどのように捉え、価値づけしているのかを検討するため、ペアレント・メンター52名(51名が子どもに自閉スペクトラム症の診断あり)に対し、自分の体験を話した機会とその肯定的体験、否定的体験及びその理由について自由記述の質問紙で回答を求め、その内容をKJ 法に準拠した手続きにより整理・分析した。本研究の結果から、ペアレント・メンターがメンター活動の中で自己体験を語るさまざまな機会が示された。肯定的体験や否定的体験になりやすいカテゴリ項目が存在すること、また同じカテゴリの項目でも関与する要因によって、肯定的体験にも否定的体験にもなりうることも明らかとなった。またこれらの体験に関与する要因として、【聞き手からの共感】【聞き手との交流】【達成感】【語りへの抵抗】という4 つが得られた。これらの結果をもとに、ペアレント・メンターが自己体験を話すことの意味とメンターの語りという活動への支援のあり方について考察した。
著者
石坂 務 井上 雅彦
出版者
NPO法人 日本自閉症スペクトラム支援協会 日本自閉症スペクトラム学会
雑誌
自閉症スペクトラム研究 (ISSN:13475932)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.5-13, 2020-09-30 (Released:2021-09-30)
参考文献数
22

本研究では、不登校状態にあった自閉症スペクトラム男児に対し、対象児が課題として有していた感覚過敏性とこだわり、暴力行為についての実態把握を行い、学校、教育委員会、警察、行政など、地域機関の支援体制を整えた。その上で、大学附属専門機関(以下、専門機関)が中心となり、行動論的アプローチを用いた登校支援を行いその効果を検討した。支援当初は男児の持つ過敏性の高さに対し、学校や家庭等周囲からの理解が得られにくく、男児は学校だけでなく外出自体に嫌悪的であった。そのため、当初の目標を学校への登校ではなく専門機関への来所行動に設定した。アプローチとして、過敏性に配慮し、調整した環境において対象児の好みに基づいてアニメやゲームの話をする等、本人の拒否が出にくい設定から来所課題を開始し、段階的に学校でも取り組める学習活動や運動を取り入れていった。また、並行して母親と面談を行い、家庭での環境調整を行うことで、暴言や暴力行為の低減をはかった。専門機関の来所行動を定着させたのち、学校と連携し登校支援を行った。連携に関しては、校内の支援チームと会議をもち、対象児の実態について引き継ぎを行い、かかわる教員、時間、学習活動を段階的に増やしていき、学校での個に応じた支援の引き継ぎと対象児の自発的な登校を定着させた。
著者
高橋 幾 小野島 昂洋 梅永 雄二
出版者
NPO法人 日本自閉症スペクトラム支援協会 日本自閉症スペクトラム学会
雑誌
自閉症スペクトラム研究 (ISSN:13475932)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.41-49, 2021-02-28 (Released:2022-02-28)
参考文献数
12

移動スキルは発達障害者の充実した地域生活にとって重要であり、運転免許取得は公共の交通機関が整っていない地域においては活動範囲の拡大につながる。しかし、日本では発達障害者の運転免許取得に関する研究は少なく、その実態は未だ明らかでない。そこで、本研究は発達障害者が運転免許取得の際に抱える困難と必要とされる支援を探索的に検討することを目的に、発達障害に特化したコースを設置しているA自動車教習所の教習データの分析、および同コースの指導員への聞き取り調査を行った。教習データの分析から発達障害者は(1)技能教習・卒業検定では、定型発達者より多くの時間を要する人の比率が高いこと、(2)技能教習では、不器用さや般化の困難などの発達性協調運動症(以下DCD)の特性との関連が指摘された。また、聞き取り調査からは、(3)指導員が技能教習で問題と感じていることは、視野・操作・般化の3つの「運転技能」の領域および「指示理解」「運転への不安」であったこと(4)支援の工夫では、運転技能への課題と併せて「指示方法の変更」「情報収集・連携」「心理面への配慮」の対応がとられていること(5)定型発達群も技能教習で問題となるところは発達障害群と変わらないことなどが明らかとなった。これらの結果に基づき発達障害者の運転免許取得において求められる支援を議論した。
著者
楯 誠
出版者
NPO法人 日本自閉症スペクトラム支援協会 日本自閉症スペクトラム学会
雑誌
自閉症スペクトラム研究 (ISSN:13475932)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.33-43, 2016-09-30 (Released:2019-04-25)
参考文献数
11

1名の無発語自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害の幼児に対して、音声言語の獲得を目指した個別指導を行った。弁別・分類学習、模倣学習、音声による要求表出の般化を中心に、学習理論に基づくアプローチが取られた。就学までのほぼ1 年間の指導の結果、言語に関わる認知機能の向上や、個別指導の各場面における音声による要求表出の増加が確認された。一方、音声模倣は十分な結果が得られず、音声言語の獲得には至らなかった。それぞれの学習の成果と問題点を検討するとともに、今後の働きかけの考察がなされた。
著者
五十嵐 一枝
出版者
NPO法人 日本自閉症スペクトラム支援協会 日本自閉症スペクトラム学会
雑誌
自閉症スペクトラム研究 (ISSN:13475932)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.5-12, 2012-10-20 (Released:2019-04-25)
参考文献数
9

幼児期から青年期に至るまで、発達障害児の治療教育を行う専門機関において治療的教育と親および本人の心理・教育面接ならびに心理検査を継続的に実施してきた。そして、長期観察を行った知的遅れのない発達障害児を対象として、発達障害児の知的能力の発達について4 事例について検討を加えた。幼児期から学童期あるいはそれ以上の年齢においても知能指数が発達的に変化し、遅れて正常域に入ってくることが示された。就学後に知能指数が上昇して正常域に入ってきた発達障害児全体の生育歴を検討すると、定頸の遅れがないこと、2 歳までに1 語を話すことが共通していた。さらに継続して実施したWISC- Ⅲの結果から、知的能力の発達的変化を示唆する指標として以下の特徴が示された。①:言語性、動作性、全検査いずれかの知能指数が85 以上(平均-1SD 以上)である。②①を満たさなくても群指数のいずれかが85 以上である。③:①②を満たさなくても下位検査のいずれかが評価点10以上である。すなわち、WISC- Ⅲに基づく発達障害児の知的能力の検討にあたっては、従来から指摘されてきた基本となる各IQ、群指数、各下位検査について、継年的な詳細な検討を行うことが重要であることが明らかになった。WISC- Ⅲの10 年以上の経過を検討すると、知的遅れのない広汎性発達障害、ADHD、LD などの発達障害児の知能指数は経年的に変化し、特に知的遅れのない広汎性発達障害 児の場合は10 歳以降に正常域に入ってくる例が少なくないことが示唆された。その影響要因として、問題の早期発見による個別およびグループの言語を中心とした早期治療的教育環境の継続的な提供と、通常学級における教科学習の効果が考えられた。
著者
下山 真衣
出版者
NPO法人 日本自閉症スペクトラム支援協会 日本自閉症スペクトラム学会
雑誌
自閉症スペクトラム研究 (ISSN:13475932)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.45-51, 2015-03-31 (Released:2019-04-25)
参考文献数
5
被引用文献数
2

研究は、ゲームに参加する直前にゲームに負けたときに取る行動を研究参加児に選択させ、選択した行動もしくは適切な行動を研究参加児が実際に取り、最後までゲームに参加できた場合に社会的賞賛とごほうびが得られるプログラムの効果を検討することを目的とした。介入は、大学のプレイルームと家庭で行われた。研究参加児は、小学校1 年生男児で、自閉症スペクトラムの診断を受けていた。介入では、かるたの対戦直前に紙芝居を使ってゲームに負けた場合に取る行動を4 つの中から研究参加児に選択させた。「我慢する」を選択した場合は、さらにどのように我慢するのかを4 つの中から選択させ、実際に選択した行動を取ったとき、適切な行動を取ったときには社会的賞賛とごほうびが得られることを研究参加児に予告した。家庭においては、紙芝居を使わずに負けたときに取る行動を研究参加児に選択させ、我慢できたときの社会的賞賛とごほうびを予告した。大学プレイルームでも家庭でも実際に負けても怒らず我慢できた場合は、予告していた強化子を子どもに与えた。結果として、プログラム導入後のゲームに負けたときの適切行動の生起は大幅に増加した。家庭においてもかんしゃくを起こさずゲームに参加することができた。「我慢しなさい」と指導するよりも、負けたときに取る行動について具体的な行動を呈示し研究参加児に選択させたこと、最後まで参加できた場合の強化子を予告したことが有効であったと考えられる。
著者
青木 康彦
出版者
NPO法人 日本自閉症スペクトラム支援協会 日本自閉症スペクトラム学会
雑誌
自閉症スペクトラム研究 (ISSN:13475932)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.13-18, 2016-09-30 (Released:2019-04-25)
参考文献数
8

本実践研究は、 ASD 児を持つ自閉症が疑われる母子家庭の母親が示す育児・家事が行えないという問題に対して、面接を通して支援を行った経過を報告している。[方法]まず、母親に家庭において期待される母親役割(家事・育児)を確認した。そして、面接を通して、現在行えていない家事・育児をリストアップし、それらを目標に家事・育児の遂行の記録をしてもらった。さらに、行うことが難しい項目について、課題分析を行い、ステップシートを作成し、それに基づいて家庭で取り組んでもらった。[結果]家事・育児のいくつかの項目について、記録開始時から面接を通して徐々に遂行率が高まった。また、「掃除をする」について、課題分析を行い、ステップシートにしたところ、当初0 ~15%であった遂行率が、57 ~100%に上昇した。社会的妥当性についても、本人、叔母ともにほとんどの項目で肯定的な評価をしていた。[考察]家事・育児の遂行率について、面接を通していくつかの項目で改善が認められた。しかし、改善が認められなかった項目については、子どもが発達障害児であることや母親本人の特性を踏まえた支援を行う必要性が示唆された。発達障害が疑われる親、発達障害児の親、母子家庭などの状態にある母親の家事・育児への支援に関して、これまで検討した研究は少なかったが、本報告により支援の有効性が示唆された。
著者
趙 成河 園山 繁樹
出版者
NPO法人 日本自閉症スペクトラム支援協会 日本自閉症スペクトラム学会
雑誌
自閉症スペクトラム研究 (ISSN:13475932)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.37-50, 2018-02-28 (Released:2019-04-25)
参考文献数
26

本研究では、同年齢児に比べ食事摂取量が少なく、摂食可能な食物の種類も限られている知的障害特別支援学校小学部3 年の自閉スペクトラム症女児1 名を対象に、児童デイサービス施設の昼食場面において嫌いな食物と好みの食物を同時に提示する方法を適用し、摂食量の増加、摂食内容とローレル指数の改善への効果、さらに、偏食に対する先行子操作に基づく介入の有効性や介入の留意点を検討することを目的とした。摂食に関する全般的アセスメントおよび偏食に関するアセスメントを実施した後、それらの結果を基に保護者と協議して、標的食物を選定した。介入は原則として対象児が施設を全日利用する日の昼食時間30 ~40 分程度であった。その結果、一部の標的食物の摂食量の増加、副菜の摂取量増加、および摂食内容の変化が見られた。ローレル指数については年齢標準には達しなかったものの、介入後に大幅な改善が見られた。以上の結果から、先行子操作に基づく介入方法である食物同時提示法の有効性が示唆され、介入の際の留意点を検討した。
著者
是枝 喜代治
出版者
NPO法人 日本自閉症スペクトラム支援協会 日本自閉症スペクトラム学会
雑誌
自閉症スペクトラム研究 (ISSN:13475932)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.23-33, 2014-05-31 (Released:2019-04-25)
参考文献数
45

ASD 児者の身体運動面の問題はASD を特徴づけるものとはいえない。しかし,旧来から身体的不器用さの存在や協調運動の弱さなど,ASD 児者の発達期における運動機能の偏りなどが指摘されてきたことも事実である。本稿では,特に発達の過渡期にあたる乳幼児期から学齢期にかけて生じることの多い身体運動面の偏りについての特徴を探るため,群馬県及び埼玉県自閉症協会の協力を得て,ASD 児者を養育してきた保護者に対し,アンケート調査を実施した。運動面の偏りに関する設定項目における選択式の回答結果や,保護者から得られた自由記述の分析から,ASD 児者の多くに身体的不器用さや姿勢制御の問題など,運動面の偏りが見られることが明らかとなった。とりわけ身体運動と関連した社会性やコミュニケーションの問題は,学齢期における「体育」などの集団活動の中で顕在化しやすく,自尊心の低下などから生じる二次的な問題へと発展していく可能性があり,具体的な支援策を検討していくことの必要性などが示唆された。なお,本研究では対象者の併存症等に関する調査及び検討は実施してないことを付記しておく。
著者
今野 義孝
出版者
NPO法人 日本自閉症スペクトラム支援協会 日本自閉症スペクトラム学会
雑誌
自閉症スペクトラム研究 (ISSN:13475932)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.21-28, 2015-09-30 (Released:2019-04-25)
参考文献数
27

愛着形成における中核的な体験は、子どもと養育者との間で交わされる温かさや柔らかさ、安心感などの快適な身体感覚の共有体験である。これまでの研究から、動作法の援助は愛着形成や共同注意行動の形成に有効なことが指摘されている。そこで本研究では、反応性愛着障害と自閉症スペクトラムが疑われ男児(5 歳10 カ月)に対して動作法による情緒の安定と愛着行動の形成を試みた。動作法の援助方法としては、「とけあい動作法」と「腕あげ動作コントロール」を用いた。セッションは、夏期休暇や春期休暇などを除きほぼ週1 回の割合で、約1 年間にわたり計24 回行った。1 回のセッションは約50 分である。その結果、動作法の援助はクライエントの情緒の安定と母親に対する愛着行動をもたらし、それを基盤として他児への関わりや他児の行動への興味・関心、父親への愛着行動などが出現した。以上の結果から、クライエントにおいては、心地よい体験を基盤とした援助者との愛着関係を拠り所にした情緒の安定や、両親への愛着関係を基盤にして他者との共同注意行動がもたらされることが指摘された。このことから、動作法による心地よい心身の体験は、クライエント自身の中に安心・安全の拠り所をもたらすとともに、他者とのつながりの中にも安心・安全の拠り所をもたらすことが示唆された。
著者
近藤 直司
出版者
NPO法人 日本自閉症スペクトラム支援協会 日本自閉症スペクトラム学会
雑誌
自閉症スペクトラム研究 (ISSN:13475932)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.37-45, 2013-03-28 (Released:2019-04-25)
参考文献数
15

ひきこもり問題と自閉症スペクトラム障害(広汎性発達障害)との関連性は以前から指摘されてきたことである。本稿では,まず,青年期ひきこもりケースの精神医学的診断と,自閉症スペクトラム障害を背景とするひきこもりケースの特性について述べる。 次に,これらのケースに対する精神療法的アプローチとして,メンタライゼーションmentalization に焦 点付けた方法論について論じてみたい。また,ひきこもりのリスクをもつ子どもへの治療・支援について検討するために,青年期においてひきこもりを生じているケースの特徴について検討した結果,自閉症特性の目立ちにくい受身的・内向的なタイプに留意すべきであることが明らかになった。また,青年期・成人期において激しい家庭内暴力など介入困難な状況に陥るケースがあることを踏まえ,その典型的な精神病理と家族状況,児童・思春期における精神科医療のあり方と,より早期の予防的早期介入に関する視点を示した。
著者
野田 孝子 仙石 泰仁
出版者
NPO法人 日本自閉症スペクトラム支援協会 日本自閉症スペクトラム学会
雑誌
自閉症スペクトラム研究 (ISSN:13475932)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.123-131, 2021-09-30 (Released:2022-09-30)
参考文献数
20

自閉スペクトラム症(ASD)女性は、知的能力障害やダウン症候群の女性と比較し、月経前症候群(PMS)の割合が高いとされるが、その実態は明らかではない。本調査では、ASD女性のPMSリスクの実態を明らかにすることを目的とし、20~44歳までのASD 女性78名から自記式質問紙による調査を実施した。その結果、ASD女性はPMSリスクを伴う割合が高く、中でも精神症状が重症化しやすいことが明らかとなった。また、PMS全体のスコアとASD女性のQOLには関連があることも明らかとなり、ASD女性の健康を維持するためには、月経に伴うホルモン変動の影響をふまえた継続的な支援の検討が不可欠であることが示唆された。
著者
長南 幸恵
出版者
NPO法人 日本自閉症スペクトラム支援協会 日本自閉症スペクトラム学会
雑誌
自閉症スペクトラム研究 (ISSN:13475932)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.29-39, 2014-11-30 (Released:2019-04-25)
参考文献数
54
被引用文献数
1

自閉症スペクトラム児者の感覚の特性に対する支援を検討するために、過去30 年間の国内研究のレビューを行った。医中誌Web 版にて「自閉症スペクトラム(Autism Spectrum Disorder: 以下ASD)」と「感覚」を検索キーワードとし、対象や内容が関連のないものを除外した結果、52 件であった。これまで医学的診断基準に感覚の特性(過敏や鈍麻:以下特性)が盛り込まれていなかったことが影響していると思われたが、今後は増加していくと予測される。感覚の特性に関する研究では、文献数および扱っている感覚数共に最多であった作業療法分野がその中心を担っていると思われた。ASD 児の半数以上に感覚の特性が生じ、生活の困難と結びつき、その程度や種類も個別性が高い。したがって、個々にアセスメントする必要があるが、誰がいつどのようにアセスメントしていくのかは、今後の課題の1 つである。さらにASD 児の母親は、早期から感覚の特性に気がついていることが多く、それが母親の感じる育てにくさにつながっている可能性がある。したがって、母親の感じる育てにくさから支援を開始することがASD 児の早期診断、早期支援に繋がる可能性があるだろう。
著者
原口 英之 小倉 正義 山口 穂菜美 井上 雅彦
出版者
NPO法人 日本自閉症スペクトラム支援協会 日本自閉症スペクトラム学会
雑誌
自閉症スペクトラム研究 (ISSN:13475932)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.51-58, 2020-02-29 (Released:2021-02-28)
参考文献数
5

全国の都道府県と政令指定都市(以下、指定都市)におけるペアレントメンター(以下、メンター)の養成及び活動の実態を調査し、今後の自治体でのメンターの養成及び活動の普及に向けた課題を検討した。都道府県39箇所(83%)と指定都市16 箇所(80%)から回答を得た結果、個々の自治体の取り組みの実態にはばらつきがあるものの、都道府県、指定都市の実態には概ね共通する部分が多いことが明らかとなった。都道府県、指定都市ともに、5 ~6 割の自治体でメンターの登録制度があり、6 ~7 割の自治体で養成研修修了者への研修が実施されていた。メンターの活動は、6 ~7 割の自治体で実施され、グループ相談、保護者向け研修、保育者向けの研修が多く実施されていた。また、メンター活動の予算のある自治体は6 割、活動の謝礼・報酬のある自治体は4 ~5 割、コーディネーターが配置されている自治体は4 割であった。一方、養成研修の修了者のうちメンターとして登録し活動する人数の割合、養成研修の実施状況、活動評価の方法、情報交換・協議の場の有無については、都道府県、指定都市で違いが見られた。本研究の結果は、都道府県と指定都市、さらには市町村におけるメンターの養成と活動を評価、検討する上での基礎資料となり得るものである。今後、全国でメンターの養成及び活動の普及を目指すためには、メンター養成と活動の取り組みの有無に影響する要因、取り組みを促進するための要因について抽出することが必要である。
著者
谷口 清
出版者
NPO法人 日本自閉症スペクトラム支援協会 日本自閉症スペクトラム学会
雑誌
自閉症スペクトラム研究 (ISSN:13475932)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.19-27, 2013-03-28 (Released:2019-04-25)
参考文献数
9

いじめは自我形成過程における対人関係の未熟性の結果,集団内の地位の向上や支配権の確立・拡大を図って攻撃を道具的に用いることにより発生する,との視点を紹介した上で,学齢期の教育相談事例から対人トラブルを主訴とする事例を抽出し,問題のカテゴリー分類を通して自閉症スペクトラム障害 (ASD),注意欠陥/多動性障害(ADHD)を含む発達障害と,いじめの関係を検討した。1)対人トラブルに は攻撃の意図性が明確な道具的攻撃と衝動統制を背景とする反応性の攻撃があり,加害・被害双方の視点 から把握する必要がある。2)学齢期の攻撃行動には男女差が認められ,女子の関係性攻撃が特徴的である。 3)ASD 事例は意図理解の困難から攻撃の対象となりやすく,個別的配慮が重要である。4)ADHD 事例等による攻撃は承認欲求の表れの場合もあるが,ASD を含む多くの発達障害事例の加害行為は衝動統制の問題 とみることができる。
著者
中山 眞人 初塚 眞喜子 東條 吉邦
出版者
NPO法人 日本自閉症スペクトラム支援協会 日本自閉症スペクトラム学会
雑誌
自閉症スペクトラム研究 (ISSN:13475932)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.53-63, 2013-03-28 (Released:2019-04-25)
参考文献数
42

本稿では,日本国憲法の人権規定の解釈論を手がかりとして,ASD 当事者への支援のあり方について考察した。具体的には,まず,(1)最近のASD 研究の動向と近年有力化している憲法13 条の解釈論をあわせて考慮すると,ASD 当事者が障害の克服や治療を強いられることなく,ありのままの存在として 生きていけるように「社会を変えていくという形での支援」が重要であると指摘し,その観点から発達障 害者支援法の問題点について検討した。その上で,(2)ASD 当事者への特別支援教育においても,従来から行われてきた「社会適応の努力を求める方向での支援」,「ASD 当事者が変わるための支援」に加えて,「ASD 当事者が安全・安心感をもって学校生活を送ることができるように環境整備を行うという形での支援」をも充実させることが重要であると論じ,ASD 当事者側がどのような支援を受けるかを自己決定に よって選択できるようにすることが望ましいことを指摘した。
著者
河村 優詞
出版者
NPO法人 日本自閉症スペクトラム支援協会 日本自閉症スペクトラム学会
雑誌
自閉症スペクトラム研究 (ISSN:13475932)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.15-22, 2019-09-30 (Released:2020-09-30)
参考文献数
29
被引用文献数
3

研究の目的:特別支援学級在籍児童の漢字学習において、5種類の学習方法が漢字の書字獲得に及ぼす効果を明らかにすることを目的とした。研究計画:操作交代デザインを使用した。場面:小学校の教室で実施した。参加者:特別支援学級に在籍する7名の児童であった。独立変数の操作:空中に指で漢字を書く「空書きによる同時再生」、紙面に指で漢字を書く「指書きによる同時再生」、薄い灰色の線を鉛筆でなぞる「同時再生+薄線プロンプト」、手本を鉛筆で書き写す「同時再生」、手本を隠して鉛筆で書く「遅延再生」の5種類の学習方法を5試行ごとに交代で実施した。学習は1日につき漢字三つであり、一つの漢字につき5回ずつ筆記させた。行動の指標:学習直後、翌日、1週間後の書きテストにおける再生成績を比較した。結果:同時再生よりも遅延再生の再生成績が高いことが多かった。同時再生+薄線プロンプトでは同時再生よりも再生成績が低いケースがあった。空書き及び指書きによる同時再生の再生成績は低いことが多かった。結論:漢字を一時的に記憶して筆記することが有効であった。書字獲得に対する筆跡のフィードバックの重要性が示唆された。しかし、全学習方法で1日~1週間程度たつと大きく再生成績が低下することが多く、課題として残った。
著者
長南 幸恵
出版者
NPO法人 日本自閉症スペクトラム支援協会 日本自閉症スペクトラム学会
雑誌
自閉症スペクトラム研究 (ISSN:13475932)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.53-61, 2017-09-30 (Released:2019-04-25)
参考文献数
16
被引用文献数
1

感覚の問題は、ASD 児の半数以上にあり、DSM-5 の診断基準にも新たに加わった。しかしASD 児の感覚の特性と行動の実態は明らかではない。今回は、ASD 児の視覚、聴覚、触覚の低反応と行動の実態を明らかにすることを目的とし、知的障害および言語障害のない年長児3 例を対象に保育活動への参加観察から得たデータを基に質的記述的分析を行った。視覚では視野の狭さにより「無関心」にみえる行動に繋がり、聴覚では感覚の同時処理や言語処理の困難さから「無視」や「無反応」にみえる行動として現れると考えられた。触覚では不確かな体性感覚が見られ、情緒的発達を妨げる要因となる可能性が示唆された。感覚全般の支援として感覚刺激負荷の減少、中心視で対象を捉えられるような視覚支援、ゆっくりと短文で話す聴覚特性への配慮、伸縮性のある衣服の着用や触覚体験を重ねるなどの触覚支援等が重要である。