著者
時任 真幸
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【目的】自己効力感(self efficacy)とは,社会的学習理論あるいは社会的認知理論の中核をなす概念の一つであり,1977年,バンデューラ(Albert Bandura)によって提唱された。これは個人がある状況において必要な行動を効果的に遂行できる可能性の認知を指している。学生の自己効力感が臨床実習によって,どのように変化し,また自己効力感へ影響をおよぼす因子の特徴などを知ることで,臨床実習の成果(学び)や不安・緊張の様子を明らかにすることが本研究の目的である。【方法】本校理学療法学科在校生38名を対象に,成田らの特性的自己効力感尺度(以下GSE)を用い,調査した。調査は実習前の4月,臨床実習I終了後の6月,臨床実習II終了後の8月の計3回実施した。3回の比較を行い,臨床実習成績との関係を調査した。また,8月の最終調査時にGSEとの関連で自己効力感の源泉についても併せて調査した。【倫理的配慮,説明と同意】研究の趣旨を口頭と文書で説明した。質問紙は継続的なため記名式とし,研究の参加・不参加による成績への影響は全くないこと,研究結果を公表することを説明した。回収は回収箱により学生が自由投函できるようにした。また,研究同意書に署名し,質問紙と共に回収することで研究参加の同意とみなした。【結果】GSEの結果は4月が65.63±13.03,6月が67.95±11.87,8月が68.18±12.68となった。一元配置分散分析の結果,主効果が認められた(p=0.0270)。さらに,Bonferroniの方法で多重比較検定を行った結果,4月と6月,4月と8月において5%水準での有意差が認められた。また,臨床実習成績との相関関係は,臨床実習Iでは相関係数r=0.261,危険率p=0.11,臨床実習IIでは相関係数r=0.09,危険率p=0.59といずれも5%水準において相関関係は認められなかった。自己効力感の源泉(情報源)についての影響は「言語的説得」「遂行行動達成」「代理的体験」「情緒的喚起」の順に自己効力感に対する源泉を認めた。【考察】仮説ではGSEの平均値は徐々に高まると考えたが4月と6月,4月と8月には有意差がみられたものの6月と8月の間に有意な差は認められず,一部の仮説のみ支持される結果となった。これは,4月の計測時に臨床実習前の不安要素が大きく自信のなさが自己を過小評価する傾向にあり,自己効力感が低くなっていると考えられる。そのため,6月の臨床実習I終了後には自己効力感源泉の「遂行行動達成」によるGSE向上が考えられる。これに対して臨床実習IIでは,臨床実習Iに対して緊張感は和らぐものの,一人の患者に対し,レポート作成までの時間が短くなる傾向があり,学生はタイムプレッシャーにより達成感は前期の実習よりは減少傾向にあると考えられる。しかしながら,経験値が増すことによって全体の平均値としては上昇傾向にあった。続いて,GSEと臨床実習成績の相関関係について検討した。これについては関連がみられなかった。浅川らの理学療法学科学生と原らの言語聴覚学科学生における先行研究でも関連はみられず,これらのことより臨床実習成績は10週間,8週間という限りある期間の,それぞれ異なる指導者による第三者評価であり,評価判定にはブルーム(Bloom,B.S.)の教育目標の分類学(タキソノトミー)にある認知領域,情意領域および精神運動領域が総合されて加味されるため,学生のGSEは臨床実習成績に反映されにくいのではないかと考えられる。GSEの源泉では,「言語的説得」が最も高く「遂行行動の達成」「代理的体験」「情緒的喚起」と続いている。これは,臨床実習指導者とマンツーマンで行う理学療法養成課程の実習スタイルが大きく影響しているものと考えられる。一人の患者を担当し,ケースレポート作成を行いながら実際の診療(治療)を行う方法で,レポートの出来不出来が実習成績や患者に関わる時間を左右してしまう。このため,診療時間終了後に行われるフィードバックが重要であり,指導者からの「金言」を漏らさずレポートに反映させていく作業に大きな労力を費やすこととなる。養成校の教員がが臨床実習訪問を行う中で,レポートは非常に良くできているものの,患者の状態把握が全くできていない実習場面に遭遇することがある。これは,先ほど述べた「言語的説得のみでは困難に直面した場合,簡単に消失してしまう」典型例といえるだろう。【理学療法学研究としての意義】自己概念が形成される青年期の臨床実習における自己効力感は,彼らが理学療法士として職業観を確立するために大切なことである。そのことに関わる養成校教員や臨床実習指導者は協同して自己効力感を集積できるよう学生支援に努め,現状の患者担当制からクリニカルクラークシップへ移行するための根拠になる資料したい。
著者
時任 真幸
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】臨床実習において養成校教員が関わる時間や方法は限られており,巡回指導や実習後の振り返りが十分なリフレクションとなっているか疑問を感じた。そこで心理学の手法として用いられているブリーフセラピーの解決志向アプローチ(Solution-Focused Approach:以下SFA)をアンケートにて調査し,ポートフォリオ化することで学生の特性的自己効力感(以下GSE)や自尊感情尺度(以下SE)がどのように影響を与え,臨床実習の成果(学び)についての検討を本研究の目的とした。【方法】本校理学療法学科最終学年38名を対象に,実習前(4月),臨床実習I終了後(6月),臨床実習II終了後(8月)の計3回,SFAを基にした記述式アンケートを実施した。同時期にGSEと自尊感情尺度を調査し,比較・検討を行った。また,目標設定のスケーリングにおける目標達成上位群と下位群に群分けし,SFAの観点から質的に検討を行った。【結果】1)10点法における目標値推移目標値平均及び標準偏差は4月が2.55±1.52,6月が4.78±1.62,8月が5.49±2.23となった。一元配置分散分析の結果,主効果が認められた(p<0.0001)。さらに,Bonferroniの方法で多重比較検定を行った結果,4月と6月,4月と8月において1%水準での有意差が認められ,6月と8月では5%水準での有意差が認められた。2)①臨床実習I終了後の目標値の変化(6月-4月)と6月GSE,②臨床実習II終了後の目標値の変化(8月-4月)と8月GSEの相関関係①では相関係数r=0.102261,危険率p=0.5412,②では相関係数r=0.312948,危険率p=0.05579といずれも5%水準において相関関係は認められなかった。なお,臨床実習IIにおいて実習中止が2名出たため,②では2名を除外した。3)①臨床実習I終了後の目標値の変化(6月-4月)と6月SE,②臨床実習II終了後の目標値の変化(8月-4月)と8月SEの相関関係①では相関係数r=0.086756,危険率p=0.6045,②では相関係数r=0.124911,危険率p=0.4549といずれも5%水準において相関関係は認められなかった。なお,臨床実習IIにおいて実習中止が2名出たため,②では2名を除外した。4)目標値が初期と最終で大きく変化した上位6名の群(以下上位群)と変化のみられなかった下位6名の群(以下下位群)における事例検討上位群においては目標値,GSE,SE,実習成績の項目において目標値と実習成績に変化が見られた。下位群では全ての項目で変化が乏しい結果となった。【考察】本研究では,臨床実習場面における到達目標設定に介入することにより,GSEやSEにどう影響を及ぼし,実習場面で困難に直面する学生への支援方法としてSFAの質問技法を検討した。結果として,GSE,SEと目標値の向上に相関はみられなかった。詳細には,4月・6月間での達成感からくる目標値に対し,GSE,SEの向上が見られず,6月・8月間では目標値,GSE,SE全てにおいてわずかな上昇率に留まっている。これは,①自己の能力評価と「臨床実習指導者・養成校教員・患者」などからなる他者の評価に乖離がみられる②達成確率と課題の判別性が十分でないこと③自己の能力に関する先行知識の不確実度によって目標設定が曖昧になってしまうことなどが挙げられる。理学療法分野における臨床実習の目標には情意領域,精神運動領域,認知領域が混在している。しかし学生は経験不足とマンツーマンでの指導に対する極度の緊張で具体的な目標を定めることが出来ない場合が多い。この事に対してSFAの手法,特にスケーリングと例外探し,ミラクル・クエスチョンを使用しての質問技法が個人目標値を向上させた上位群においては有効であることを示した。臨床実習のような学生にとっては長い期間であるが,2ヶ月の間に1度の訪問で,後は電話やメールによってしか対応できない。上記の有効性によって学生の支援ツールの一つとしてSFAによる面接やポートフォリオの使用は解決の手がかりとなると考えられる。【理学療法学研究としての意義】「経験はしっかりと内省してはじめて学習になる」という考え方がリフレクションであり,経験の浅い学生にはとても重要であるということは自明の理である。学生にとって臨床実習が有効な学習になるための支援ツールとして,SFAを基にした目標設定が必要ではないかと考える。