著者
森 明子 上村 洋充 髻谷 満 曽田 幸一朗 眞渕 敏 川上 寿一 道免 和久
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, 2007-04-20

【はじめに】デグロービング損傷は機械を扱う労働者が機械に巻き込まれ上肢を受傷するケースが多いが、下肢の受傷ケースは少ない。歩行獲得に向けて理学療法士の役割は大きいにも関わらず症例報告はほとんどない。そこで今回、早期より下腿デグロービング損傷と足関節伸筋腱断裂を伴った症例を経験したため報告する。<BR>【症例】19歳女性。平成17年4月25日列車脱線事故により、右下腿デグロービング・足関節脱臼、左足関節内果骨折、左前腕骨折受傷。その他重篤な外傷なし。右足関節伸筋腱すべて断裂していたため同日、縫合術施行。血液検査データはCK1855U/l、白血球15500/μl、第3病日ではCK3448U/l、CRP12.1mg/dlと高値であった。表皮の欠損が広範囲のため第31病日より右下腿創部にハイドロサイト、第36病日よりフィブラストスプレーを使用開始した。第75病日、全荷重許可後より右下腿皮膚形成の急速な進行がみられた。<BR>【理学療法経過】第15病日より理学療法(以下PT)開始。右長下肢、左短下肢ギプスシーネ固定中。右膝屈曲は禁忌。左下肢は踵部での全荷重可能。寝返り、起き上がりは痛みの範囲内で自立。立ち上がりは左踵骨のみの荷重で介助下にて可能。左下肢筋力は4レベル。第24病日、右下肢は短下肢ギプスシーネに、左下肢は軟性装具へ変更。右膝ROM、右大腿四頭筋、ハムストリングスの筋力強化を等尺性運動にて開始。また左足関節装具装着にて左下肢全荷重開始。第30病日、右下腿ギプスシーネ除去し右足関節・足指自動運動開始。第36病日、PT室にて右下肢1/3荷重開始。第39病日、右足関節・足指他動運動開始。第65病日、右下肢1/2荷重で歩行練習開始。第75病日、右下肢全荷重、両松葉杖歩行、自転車エルゴメーター開始。第88病日、軟性装具装着下にて歩行自立。第99病日、装具なしにて病棟内歩行自立し、第120病日には病院内歩行許可となり、第151病日、自宅退院となる。退院時の右足関節可動域は背屈10°、底屈30°。左右片脚立位は30秒以上可能。階段昇降は自立。ジャンプ、ランニングは困難であった。<BR>【考察】デグロービング損傷の場合、皮膚の再生や創部への負荷を考え、早期からの荷重や歩行は困難とされることを臨床上経験することが多い。しかし、本症例では感染に注意しハイドロサイトやフィブラストスプレーを併用し、創部の浮腫や腱への負担を注意しながら早期から荷重・歩行練習行うことで順調な経過を得ることができた。荷重・歩行は筋ポンプ作用による筋血流量増加や、皮膚への血流量の増加につながり、皮膚組織の再生にも寄与したのではないかと考えられる。損傷部位の組織修復過程を考慮した治療が肝要である。<BR><BR>