- 著者
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横井 悠加
伊藤 理恵
森 明子
森下 勝行
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement
- 巻号頁・発行日
- vol.46, pp.H2-19_2-H2-19_2, 2019
<p>【はじめに、目的】</p><p>腹直筋離開(diastasis rectus abdominis:以下DRA)は,左右の腹直筋間に位置する白線の離開とともに,白線の機能障害を呈するものと定義されている(Venes et al., 2005).白線が位置する腹壁の障害は,その協調的作用から,骨盤底機能障害や腰部骨盤帯痛を引き起こすと予測されるが,本研究者らが実施したシステマティックレビューではその関連性を否定する結果が示された(横井ら,2017).この結果の要因として,各先行研究におけるDRAの定義に相異があること,またDRA評価時に腹直筋間距離(inter-rectus distance:以下IRD)のみで判断しており,白線の重要な機能である白線の組織硬度を評価していないことが考えられた.そこで本研究では,DRAを呈する女性のIRDと白線の組織硬度を測定し,それらと骨盤底機能障害との関連性を明らかにすることを目的とした.</p><p>【方法】</p><p>対象は,2017年1月から2017年12月までに出産した産後女性16名(年齢33.1±5.0歳,身長159.1±5.4cm,体重51.6±5.8kg,BMI 20.5±2.5kg/m<sup>2</sup>)である.研究デザインは横断研究を採用し,DRAの評価指標として,超音波診断装置によるIRD(臍部上1cmごとに10cmまで10箇所と,臍部下1cmごとに5cmまで5箇所の計15箇所)と,組織硬度計による白線の組織硬度(IRD測定箇所と同様)を計測した.いずれかの計測箇所にてIRDが25mm以上,または白線の組織硬度が150N/m以下であった場合をDRAと判断した.また,骨盤底筋の機能評価として,超音波診断装置での経腹法による膀胱底部挙上距離を計測し,骨盤底機能障害には,International Consultation on Incontinence Questionnaire-Short Form(以下ICIQ-SF)を用いて尿失禁を評価した.統計解析は,2標本<i>t</i>検定を用い,有意水準は5%とした.</p><p>【結果】</p><p>IRDによる評価では,DRA+群が8名,DRA―群が8名となり,白線の組織硬度による評価では,DRA+群が6名,DRA―群が10名となった.IRD,または白線の組織硬度を基準にした場合,どちらにおいてもDRAの有無による膀胱底部挙上距離(IRD: DRA+群; 1.8±3.2mm, DRA―群; 3.2±5.1mm,<i>p</i>=0.52, 95%IC=-5.95, 3.15, 白線の組織硬度: DRA+群; 3.3±5.2mm, DRA―群; 2.0±3.7mm,<i>p</i>=0.548, 95%IC=-3.36, 6.07)とICIQ-SF(IRD: DRA+群; 3.1±4.9点, DRA―群; 0.4±1.1点,<i>p</i>=0.158, 95%IC=-1.33, 6.83, 白線の組織硬度: DRA+群; 1.8±3.2mm, DRA―群; 3.2±5.1mm,<i>p</i>=0.947, 95%IC=-4.35, 4.08)の結果に有意差を認めなかった.</p><p>【結論(考察も含む)】</p><p>本研究では,DRAの新たな評価指標として白線の組織硬度を計測し,また先行研究よりもIRDの計測箇所を増やすことで,包括的なDRAの評価を試みたが,本結果より,どちらの評価指標を用いても骨盤底機能との関係において否定的な結果が示された.このことから,DRAによるIRDの増加と白線の組織硬度低下は骨盤底機能に影響を及ぼさないことが示唆された.しかし,本研究におけるサンプルサイズは再考の余地があり,今後更なる研究の継続が重要と考える.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本研究は,城西国際大学倫理委員会の承認を得た上で,対象者には口頭および書面にて説明を行い,同意を得た後に実施している.</p>