著者
曽田 繁利
出版者
国立研究開発法人理化学研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究課題では、強相関系の量子ダイナミクスを明らかにすることを目的に、密度行列繰り込み群法を応用した強相関量子シミュレータの開発を行うことである。平成29年度に実施した強相関量子シミュレータの開発における進展は、時刻の異なる状態について、密度行列繰り込み群法によりそれぞれの時刻の状態を表現するために最適化された異なるヒルベルト空間の表現で与える新たな時間依存密度行列繰り込み群法の手法を開発した。ここで開発された手法は、動的密度行列繰り込み群法で用いられるマルチターゲットの手法を応用し、異なる時刻の状態をひとつの最適化されたヒルベルト空間の表現で与える場合と比較して、半分程度の制限された基底の数でよりより高精度な結果を得ることが確認された。特に密度行列繰り込み群法の計算コストはこの制限された基底の数の3乗で与えられることから、本課題で開発された手法は非常に有効であると考えられる。また、同時にこの密度行列繰り込み群法の大規模並列化を進め、本研究の対象である強相関量子系の量子ダイナミクスの研究を行った。平成29年度の研究成果としては、幾何学的なフラストレーション効果により量子モンテカルロ法では取り扱いが困難な系を中心に、三角格子ハバード模型やKagome-strip鎖の新奇量子相の研究、またSPring-8等の大規模実験施設と連携したキャリアドープされた銅酸化物高温超伝導体の電子状態の解析等を行った。また、本研究課題で開発を行っている多次元系へ応用可能な時間依存密度行列繰り込み群法の応用研究として組合せ最適化問題に対して有効であると考えられる量子アニーリングに対する応用研究を行い、その研究成果を国際会議において発表した。