著者
岡田 康志
出版者
国立研究開発法人理化学研究所
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2014-04-01

発生過程においては、さまざまな自己組織化現象がみられる。その理論的枠組みとして、チューリング型の反応拡散系がよく知られているが、系に関与する分子数が少数である場合には、少数資源の奪い合いによる自己組織化という形でチューリング型の反応拡散系を実装することが可能である。申請者らは、幼若神経細胞の形態形成過程における細胞内輸送の制御機構が、細胞内輸送という少数資源の奪い合いによる自己組織化の好適なモデル系であると考え、本研究においては、キネシン型分子モーターによる細胞内輸送が、正の協同性と少数資源の奪い合いの効果によって、自己組織化されることを実証した。まず、in vitro再構成系で、微小管とキネシンだけからなる系で、キネシン濃度依存的にキネシンと微小管の相互作用に協同的自己組織化現象が生じることを示した。さらに、その機構を一分子計測と構造解析を組み合わせることによって解明した。一方、細胞内でキネシンと微小管の結合速度定数を直接計測する一分子顕微鏡システムを構築し、これを利用することで細胞内でのキネシンと微小管の結合制御を微小管1本、キネシン1分子のレベルで明らかにした。その結果、細胞内には、キネシンとの親和性が異なる微小管が少なくとも4種類存在し、キネシンとの結合や微小管自身のダイナミクス、翻訳後修飾など様々な系によって複雑に制御されていることが示唆された。
著者
岡田 康志 高井 啓 島 知弘 池田 一穂 伊藤 陽子
出版者
国立研究開発法人理化学研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

細胞内物質輸送のナビゲーション機構はこれまでほとんど判っていなかった。我々は、微小管がGTP結合状態とGDP結合状態で異なる構造をとることを示し、神経細胞軸索起始部に局在するGTP結合型微小管が軸索輸送のナビゲーションを行うという新しい概念を提唱している。本研究は、これを発展させ、以下の3つの課題を通じて細胞内物質輸送のナビゲーション機構の基本原理を解明した。①分子モーターの運動性に対する微小管の構造状態の影響の解析と、その分子機構の解明、②微小管の構造状態が細胞内の位置特異的に制御される機構の解析、③非神経細胞における分子モーターのナビゲーション機構の解析
著者
伊藤 孝
出版者
国立研究開発法人理化学研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

ミトコンドリアは栄養代謝、エネルギー産生やアポトーシス制御等の生命の根幹を担う。栄養代謝・ミトコンドリア異常が疾患や個体の老化に関わる一方で、ミトコンドリアを標的にする効果的な治療法開発・社会実装には至っていない。我々は特定の乳酸菌により、ミトコンドリア異常を改善できること、モデル生物の寿命を延長できることを見つけた。本研究は外部環境由来因子である乳酸菌がミトコンドリアと個体老化を制御する機構を解明する。進化上細胞内共生する元微生物であるミトコンドリアと、外で共生する腸内微生物がどう宿主健康寿命への役割を共有し、また競合関係にあるのか、その問いにも考察を与える。
著者
石井 俊輔
出版者
国立研究開発法人理化学研究所
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2016-04-01

テロメアは染色体末端に位置するTTAGGG(ほ乳類の場合)の反復配列で、染色体末端を保護する役割を持つ。またテロメアの長さは細胞分裂毎に短くなり、老化を測定する時計の役割を果たすと考えられている。一方ヒトの疫学調査結果から、精神ストレスを受けるとテロメアの長さが短くなることが示唆されており、またテロメアの長さが次世代に遺伝することも示唆されている。しかしストレスによるテロメア短縮のメカニズム、テロメアの長さが世代を超えて遺伝するメカニズムは全く分かっていない。様々な精神ストレスにより抹消組織でTNF-αなどの炎症性サイトカインが誘導されることが知られている。私達は最近、ストレス応答性のクロマチン構造制御因子ATF7がテロメラーゼ(TERT)と結合し、テロメア上のKu複合体を介して、テロメアに結合すること、そして精神ストレスで誘導される炎症生サイトカインTNF-αによりATF7がリン酸化されると、ATF7とTERTがテロメアから遊離し、テロメアが短くなることを明らかにした(NAR, 2018)。また私達は精細胞でのストレスによるテロメア短縮がそのまま次世代に遺伝するのではなく、TNF-αがATF7のリン酸化を介してサブテロメア領域のヘテロクロマチン構造を壊し、その領域からの転写誘導により増加したTERRA(Telomere repeat-containing RNA)が、精子を経て受精卵に伝達され、それにより次世代組織でテロメア短縮が生じることを明らかにした。このように染色体構造の維持に重要なテロメアの長さは、世代を超えて精神ストレスの影響を受けることが明らかにされた。
著者
片岡 洋祐
出版者
国立研究開発法人理化学研究所
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2015-04-01

プラズマは光・電子・イオン・ラジカルの集団で、生体分子や組織と相互作用することが知られ、近年、癌治療や止血等に応用されようとしている。しかしながら、中枢神経組織へのプラズマの作用については報告が少なく、その応用の可能性は未知数である。本研究ではラットの中枢神経組織を対象に大気圧プラズマを照射し、神経伝達や組織の可塑性・再生機能へ及ぼす効果を検討した。特に、大脳新皮質へ大気圧プラズマを直接照射して、その後の組織学的な変化を観察した結果、照射3日から7日後にかけて、大脳皮質の照射部位近傍において、グリア前駆細胞マーカーを発現する細胞やミクログリアマーカーを発現する細胞などの複数の細胞種が層状に配列する特徴的な組織構築が形成され、組織の再生を誘導する再生面を形成することを発見した。また、照射後3日をピークに未分化細胞マーカーを発現する細胞も多数出現し、活発に増殖していることも見出した。そこで、こうした大脳皮質組織を採取し、培養試験系にてスフェア形成実験を実施し、多分化能を有する幹細胞が誘導されているかを検討した。その結果、プラズマ照射組織からは大型のスフェアが多数形成され、分化誘導するとニューロン・オリゴデンドロサイト・アストロサイトなどの中枢神経細胞が得られることもわかった。大気圧プラズマ照射技術は、今後、中枢神経組織をはじめ、生体のさまざまな組織の再生医療に応用展開できる可能性が見出された。
著者
宮崎 敦子 野内 類 市来 真彦
出版者
国立研究開発法人理化学研究所
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

すでに発症した認知症であっても、身体運動により認知機能の改善効果があった報告が数多い。低活動が問題となる長期滞在型の施設で、重度の認知症患者であっても維持されているリズム応答機能を利用し、認知症やその他の衰弱性疾患の人々が参加できる新しいプログラムを開発した。集団でドラムを使ったコミュニケーション演奏を行なうプログラムを30分間週3回3ヶ月間のランダム化比較試験介入実験を行なった。その結果、3ヶ月間のドラム演奏は可能で且つ上達することがわかった。認知機能のスコアが改善し、運動機能も関節可動域で有意に改善していた。従って、集団ドラム演奏は運動効果や認知機能改善効果があることがわかった。
著者
福本 学 大野 剛 山本 直樹 鈴木 正敏
出版者
国立研究開発法人理化学研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

有害獣として被災地域で殺処分された野生ニホンザル(被災サル)の解剖を行い、内部被ばく・外部被ばく両方の線量評価を伴った臓器アーカイブを構築し、他研究者へも提供する。アーカイブを用いて被災サルの全身臓器の形態・分子変化を検索し、被ばく線量・線量率との関係を明らかにする。特に甲状腺、水晶体と造血系の変化に留意する。内部被ばく線量率に応じて被災ウシで酸化ストレスが増加しているなど、今までに報告した結果を被災サルで検証し、長期持続被ばくの普遍的な放射線影響を知る。霊長類である被災サルの病理学的解析からヒト放射線防護への直接的な貢献を目指す。
著者
岡本 仁
出版者
国立研究開発法人理化学研究所
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2016-05-31

手綱は、進化的に最も保存された脳の部分の 1 つであり、嫌悪刺激に対処するための行動の制御における役割で知られている。 ゼブラフィッシュでは、社会的闘争において支配的か服従的に行動するかの選択の制御において、背側手綱からその標的である脚間核までの2つの平行な神経経路が重要な役割を果たす。それぞれの経路は、その結合強度が空腹などの魚の内部状態に応じて可変的であり、注意を自分自身か外部に向けるかにおいても重要な役割を果す。 即ち手綱核が、自分自身の身体の状況に注意を払う勝者として、または他者や外界に注意を払う敗者として振る舞うかを制御するスイッチボードとして働く可能性が明らかになった。
著者
寺尾 知可史
出版者
国立研究開発法人理化学研究所
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

関節リウマチの滑膜に発現するタンパクの分布が異なる可能性を考え、各関節部位の滑膜、特にDIP関節の滑膜の収集を試みたが、ヒトで検体を保持している施設はほとんど見られなかった。そこで、関節炎モデルにも用いられるカニクイザルを対象とすることとした(モデルではDIP滑膜はやはり影響を受けにくい)。新日本科学に依頼し計3匹の各関節(手足DIP,PIP,MP,手関節、肩、肘、股関節、膝、足関節)から滑膜を取得した。サル関節滑膜からのRNA抽出の条件検討を行い、最適化の上で抽出を行った。ボストンのブロード研究所でRNAシーケンスを行って転写産物の網羅的データを得た。遺伝子転写産物の解析を現在行っている。
著者
木庭 乾
出版者
国立研究開発法人理化学研究所
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

2型自然リンパ球(ILC2)は、アレルゲンによる組織損傷に伴い産生されるIL-25やIL-33に反応し、迅速かつ多量に2型サイトカインを産生することでアレルギー性炎症を誘導する。申請者は多様な免疫細胞を比較したRNAシークエンスデータを解析し、ILC2が神経伝達物質であるセロトニンの受容体を特異的に発現していることを見出し、セロトニンがILC2の増殖やサイトカイン産生を抑制する因子であることを明らかにした。本研究では、アレルギー性炎症におけるセロトニンの新たな生理的役割を、ILC2の抑制という観点から明らかにし、その抑制機構の破綻とアレルギー疾患の因果関係を解明する。
著者
松田 佳尚 小西 行郎 渡部 基信
出版者
国立研究開発法人理化学研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

乳児期の人見知り行動が、相手に近づきたい(接近行動)と怖いから離れたい(回避行動)が混在した状態、すなわち「葛藤」状態であることを発見し、さらに相手の「目」に敏感に反応することを明らかにした。さらに、自分と向き合った顔(正視顔)とよそ見をしている顔(逸視顔)の映像では、よそ見をしている顔を長く観察することが分かった。また、800名を対象に生後4~18ヵ月の間、縦断研究を行ったところ、人見知りの出現時期や強さに個人差が大きいことが分かった。この成果によって、これまで知られていた、学童期に見られる人見知りの原因とされる「接近と回避の葛藤」が、わずか1歳前の乳児でも見られることが初めて示された。
著者
磯村 拓哉
出版者
国立研究開発法人理化学研究所
雑誌
学術変革領域研究(A)
巻号頁・発行日
2023-04-01

本研究では、我々が近年開発したリバースエンジニアリング手法に基づき、様々な生物種の神経活動データを統一的に説明・予測可能な普遍的な生成モデル「基盤脳モデル」を創出する。この基盤脳モデルは自由エネルギー原理に従う脳型人工知能であり、原理的には、様々なタスク下の神経活動や行動を予測できると期待される。予測が可能であるかをテストすることで自由エネルギー原理や能動的推論の妥当性の検証を行い、予測と行動の統一理論の構築を目指す。
著者
磯村 拓哉 銅谷 賢治 小松 三佐子 蝦名 鉄平
出版者
国立研究開発法人理化学研究所
雑誌
学術変革領域研究(A)
巻号頁・発行日
2023-04-01

脳の計算原理を解明し人工知能に実装することは自然科学最大のフロンティアである。脳はどのように外界の生成モデルを獲得し予測や行動を実現しているのだろうか?本領域の目的は、最先端の計測技術を用いて様々な動物の脳から神経細胞の活動を高精度・大規模に取得し、データから生成モデルをリバースエンジニアリングすることで、脳の統一理論を構築・検証し、その神経基盤を解明することである。そのために神経科学と情報工学の融合領域を創成する。
著者
稲田 健吾
出版者
国立研究開発法人理化学研究所
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

動物は本能的に攻撃性を持つ。しかし攻撃行動は多くのエネルギーを消費し、自身が傷つく可能性や社会的制裁を受けるリスクを負うことにもなる。そのため動物は不要な攻撃衝動を抑制する機構も併せ持つと考えられている。近年光遺伝学に代表される、高い時間・空間分解能で神経活動を人為的に操作する手法が登場したことで、オスマウスをモデルに攻撃行動を促進する視床下部領域の細胞構成について理解が進んだ。しかし攻撃性を抑制する神経回路メカニズムについてはほとんど解明されていない。本研究では内分泌ホルモンであるオキシトシンが、攻撃行動の制御中枢を抑制することで攻撃衝動を抑止しているのではないかと仮説を立て検証を行う。
著者
黒田 公美 天野 大樹 吉原 千尋 時田 賢一
出版者
国立研究開発法人理化学研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

未交尾オスマウスは子マウスに対して攻撃的であるが、メスとの交尾・同居を経験し父親になると、自分の子ばかりか他人の子まで養育する。この「父性の目覚め」において、攻撃には前脳分界条床核の一部分BSTrhが、養育には内側視索前野中央部cMPOAが重要であることを見出した。BSTrhの機能を阻害すると子への攻撃が弱まり、cMPOAの機能を阻害すると子を養育できなくなった。また光遺伝学的手法でcMPOAを活性化すると、子への攻撃が減る。さらにオスマウスが子を攻撃するか、養育するかは、cMPOAとBSTrhの2つの脳部位の活性化状態を測定するだけで、95%以上の確率で推定できることがわかった。
著者
黒田 公美
出版者
国立研究開発法人理化学研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-07-18

家族で子育てをする霊長類マーモセットを用い、親子の分離―再会試験(10分間、N≧250)における親子の行動と音声コミュニケーション解析から、親の子育てスタイルが子の発達に与える影響を分析した。そして子の鳴きに対する感受性と、背負った子に対する拒絶性という親の子育ての2変数に応答し、不安型(親に背負われても鳴き続ける)、回避型(親の背負いを拒絶する)愛着行動を示すことを見出した。続いて人工保育を受けた子マーモセットは、混乱型(しがみつかず、月齢に不釣り合いに鳴き続ける)愛着を示し、成長後も社会的(異性)・非社会的(おやつ)報酬に対してネガティブ発声を行うことを見出した。
著者
伊藤 亜里
出版者
国立研究開発法人理化学研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

免疫記憶の柱の一つである、抗体産生を長期に行う長期生存形質細胞を取り巻く環境については明らかになりつつあるが、それ自体の性質の変化は明らかではない。我々は、骨髄の形質細胞で脾臓に比べて発現が高い遺伝子として、亜鉛を結合するMT1とMT2を同定した。MT1,MT2高発現形質細胞の遺伝子発現を調べたところ、Flt1, Hmox1など、細胞のストレス低減に関連する遺伝子群と発現の相関が高かった。脾臓の形質細胞ではMT1とMT2の発現がIL-6刺激によって上昇した。これらの結果から、長寿命形質細胞は、骨髄環境内でIL-6などの生存刺激を受けてストレス耐性機能を獲得している可能性が考えられた。
著者
花栗 哲郎 町田 理
出版者
国立研究開発法人理化学研究所
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2022-06-30

本研究では、電子状態解析ツールである走査型トンネル顕微鏡が、単一原子操作にも用いることができる点に着目する。超伝導体やMott絶縁体など電子相関が本質的に重要な系の表面に、単一原子操作によって人工構造を作製し、非自明な「新物質」をボトムアップ的に実現する。規則配列した原子のスピンや電荷と、基板の多体効果が協奏・競合して生み出す電子状態を、走査型トンネル顕微鏡を用いた分光イメージングで解明し、新しい量子現象を探索する。
著者
藤代 有絵子
出版者
国立研究開発法人理化学研究所
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2022-04-01

本研究では、電子スピンが固体中で作る非共面的な構造(立体角を張る)とその揺らぎを制御し、新たな電気輸送特性の探索を行う。特に、螺旋スピン構造の電流駆動がもたらすインダクタンス効果や、磁性が外部パラメーター(圧力など)の制御によってゼロ温度で消失する量子相転移近傍での輸送特性に着目する。従来の研究で着目されてきた静的な長距離秩序の枠組みを超えて、スピン構造のダイナミクスがもたらす新規現象についての学術的理解を深めることを目指す。