著者
有村 貞則
出版者
国際ビジネス研究学会
雑誌
国際ビジネス研究 (ISSN:18835074)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.1-17, 2009-09-30

「多様な人材を"競争優位"や"組織パフォーマンス向上"のために活かす」。肯定派・中立派・懐疑派を含めて、日本国内においては、米国生まれのダイバーシティ・マネジメントが発するこのメッセージに関心が集まることが多い。しかし、ここだけにとらわれると、かえってダイバーシティ・マネジメントの特質が見失われる危険性がある。本稿では、ダイバーシティ・マネジメントの創始者ともいえるRoosevelt Thomas(1991)に立ち戻り、ダイバーシティ・マネジメントは、決して競争優位や組織パフォーマンス向上といった「企業の成功」だけを意図している訳でないこと、それとともに「機会均等」をも実現しようとしており、そのためには長期継続的な視点で「すべての従業員に有効に機能する環境」作りを行わないといけない。これこそがダイバーシティ・マネジメントたるための極めて重要な特質であることをまず確認する。次にもうひとつの特質として「個人よりも組織の変革重視」があることを指摘するとともに、ダイバーシティ・マネジメントの本質をより深く理解するための一助として、障害についての新学問であるディスアビリティ・スタディーズとダイバーシティ・マネジメントの類似性に着目してみたい。特にここでは、先駆的米国企業のダイバーシティ・マネジメントとは「すべての従業員に有効に機能する環境」作りのために、ディスアビリティ・スタディーズが主張するところの「強制力をもった環境改変手段」、「強制力のある社会変革手段」、「実践モデル」に対応する各種の取り組みを同時並行的に展開している過程であることを描き出す。最後に一般的イメージとは異なり、日本企業の障害者雇用は、欧米企業よりも進んでいるかもしれない。したがって障害者の雇用という点では、日本企業にも欧米企業に勝るとも劣らないダイバーシティ・マネジメントの側面があるかもしれない。この可能性を示唆したい。