著者
有田 洋子
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学 : 美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
no.28, pp.27-38, 2007-03-31

本稿は,光琳「紅白梅図屏風」の左隻・右隻間で生じている流水のずれの不自然さを,どう解釈するかを軸にした鑑賞教材化研究である。光琳は鑑賞者に両隻間で流水のつながりを想像させるようにずらして描いたという仮説をたて,次の検討を行った。まず,屏風という空間の中に奥行きをもって存在する作品形態についての考察から,鑑賞教育の内容と過程が,1.屏風の折り方,2.左隻と右隻の間の距離,3.左隻と右隻の間隙の想像的接続,という三段階になるとした。さらに,教科書等の挿図で流水のずれがどのように解釈されているのかを調べた。以上を踏まえた鑑賞授業の試行的実践を行い,鑑賞教材としての教育的可能性を確認した。
著者
有田 洋子
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.35-50, 2019 (Released:2020-04-28)
参考文献数
33

戦後日本の教員養成大学・学部における美術教育学の人的制度基盤は,戦後の大学での教員養成政策が教養教育重視から教職の専門性重視へ転換していく過程で成立する。師範学校が教員養成大学・学部に移行しても美術科教育の専門性は意識されなかった。昭和39年から53年にかけての学科目「美術科教育」の設置は美術科教育の専門性を形式的に出現させた。ただ時代的な余裕から教官配置の遅れや所属教官の研究内容との不整合等はあった。昭和43年からの大学院美術教育専攻の設置は,文部省の委員会による美術科教育教官の論文業績審査があり,美術教育学の内容的専門性を制度的に保証した。最初は大学院設置に関して大学や教官の温度差やコンセプトの違いはあったものの,平成11年に美術教育専攻の全国設置が完了した。大学院美術教育専攻設置によって美術教育学の人的制度基盤は成立した。
著者
有田 洋子
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.1-14, 2006

本稿は,美術鑑賞教育において複数の解釈を検討させることに意義があることの証明を目指している。まず,複数の解釈の存在様態を分類表にして全体像を示し,さらに吉川と金子の所論を基に,複数の解釈を検討させる授業過程モデルを作った。次に,複数の解釈が共存する事例として,北斎「富嶽三十六景・駿州江尻」の構図解釈説を検討し,それを踏まえて行った実践の結果から,複数の解釈を検討させる鑑賞教育の意義を確認した。