- 著者
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有賀 一朗
神先 秀人
引地 雄一
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
- 巻号頁・発行日
- pp.Ab0415, 2012 (Released:2012-08-10)
【はじめに、目的】 Perryは立脚期の足関節と足部の転がり運動を3つのロッカーに分類し,それらの臨床的重要性を指摘した.その中で,フォアフットロッカー(以下FR)は,立脚終期に生じる中足趾節間関節を支点とした回転運動であり,その機能としては重心の前方への推進力を反対側の下肢に効果的に伝えることとされている.ロッカーファンクションのメカニズムに関しては,下肢関節モーメントや角度変化,筋電図学的分析に基づいた説明はなされているものの,重心移動に焦点を当て,詳細に検証した報告はみられない.本研究の目的は,FRが歩行中における重心移動や仕事量,エネルギー変化に対してどのような役割を有しているかを明らかにすることである.本研究では,片側の足底面の動きに制限を加えた歩行と加えない歩行を比較することで, FRの果たす機能について検討した.【方法】 対象は本研究に同意の得られた12名の健常女性(平均年齢は23 ± 1.7歳)であった.足底面の動きを制限するためにプラスチック製足底板(以下Plas)とアルミ製足底板(以下Alumi)を作製し,足底板を用いない場合(以下Shoe)の歩行と比較した.足底板は対象者の右足に装着させ,3次元動作解析装置と2枚の床反力計が備えられた約6mの歩行路を自由速度にて歩行させた. 各々の試行について,2枚の床反力計より得られた総床反力から二重積分法を用い,3方向の重心の速度および変位を求めた.さらに一歩行周期の平均速度を加えることにより,重心のエネルギー変化,力学的エネルギー交換率(%Recovery:%R),一歩行周期中の重心移動に必要な仕事量および左右それぞれのPush-off期の仕事量を算出した.%Rは重心の位置エネルギーと運動エネルギーの交換率を意味し,その値が高いほど機械的効率性の高い歩行と判断できる.また,立脚期における両側の下肢関節角度のピーク値および時間―距離因子である歩行速度やストライド長,歩行率,各歩行周期の時間比率を算出した. 統計処理は各パラメーターの3回の平均値を用いて,反復測定分散分析および多重比較検定を行い,各条件間で比較した.有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 事前に研究の趣旨や研究に伴うリスク等を対象者に説明し,書面にて同意を得た.なお,本研究は山形県立保健医療大学の倫理委員会の承認を得て行った.【結果】 一歩行周期全体の重心移動に必要な仕事量および%Rは,足底面を制限した条件で有意な変化は認められなかった.しかし,歩行周期を左右の片脚支持期および2回の両脚支持期の4期に分けて詳細に検討してみると,制限側(右)片脚支持期における%Rは,Shoeで71.5 ± 4.8%,Alumiで64.9 ± 5.9%と,Alumiで有意に減少した(p<0.001).一方,左脚先行の両脚支持期ではShoeで51.2 ± 9.5%,Alumiで60.2 ± 12.4%であり,Alumiで有意に増加した(p<0.05).歩行中の重心側方移動幅は,Shoeで2.20± 0.69cm,Alumiで2.69 ± 0.62cm,上下移動幅はShoeで3.67 ± 0.69cm,Alumiで4.17 ± 0.71cmであった.AlumiはShoeと比較して歩行中の側方および上下移動幅がそれぞれ22%,14%と有意に増加した(p<0.05).また,制限側(右)のPush-off期の正の仕事量がPlas,Alumiともに有意な減少を示した.下肢関節角度に関して,制限側(右)ではShoeと比較して,Alumiで足関節背屈角度の増加,底屈角度および股関節外転角度の減少を認めた.非制限側(左)ではShoeと比較した時に,Alumiで股関節外転角度の増加を認めた.時間-距離因子に関しては,歩行速度,ストライド長,歩行率とも3条件間で有意差は認められなかった. しかし,各歩行周期の時間比率に関しては非制限側の片脚支持時間がShoeと比較し,Plasで有意な減少を示した(Shoeと比較した時はAlumiにおいてp=0.081).【考察】 本研究では片側の足底面の動きを制限することで,FRが歩行中における重心移動や仕事量,エネルギー変化に対してどのような機能を有しているか検討した.今回の結果より,FRは位置エネルギーを運動エネルギーに効率よく変換する働き,側方および上下の重心移動の抑制効果,Push-off期における仕事量の産出に関与していることが示唆された.【理学療法学研究としての意義】 本研究から得られた結果は,正常歩行におけるFRの機能を理解する,また中足趾節間関節が制限された歩行の特徴を理解するうえで有用な知見になると考えられる.