著者
程 くん 丸山 智 朔 敬 依田 浩子 大城 和文
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究では、唾液腺に発生する良性腫瘍・多形性腺腫の二次的悪性転化を中心に検討し、良性腫瘍から悪性腫瘍が発生する機序について考察した。多形性腺腫内には異型細胞が出現する頻度が高く、巣状癌が二次的に悪性化する可能性を提言してきたからである。まず、ヒト耳下腺多形性腺腫組織から不死化細胞を単離し、6株の細胞系SMAPを樹立し、これら細胞について種々の検討をおこなった。SMAP1-3は導管上皮、SMAP4-6は筋上皮への分化性格が有していた。これらの細胞は平均107本の染色体、核型5nの異数倍性、さらに第13番染色体q12と第9番染色体p13の相互転座が共通してみいだされ、同部より遠位の遺伝子座欠失で同位のp16遺伝子など癌化関連遺伝子の機能喪失が示唆された。またp53遺伝子異常も発見された。したがって、以上のような遺伝子レベルでの異常をもとに悪性形質が獲得されていくことが示唆された。また、多形性腺腫における被膜浸潤と脈管侵襲の発生頻度を検討したところ、被膜浸潤は検討症例ほぼ全例ときわめて高頻度で、被膜外進展も約20%の症例でみられた。さらに静脈侵襲事例は約15%であった。侵襲部位の組織学的特徴は粘液様間質で乏血管性の特徴があった。その乏血管分布性の背景にはVEGFと特徴的スプライシング様式とHIF-1α高発現の関連があった。したがって、多形性腺腫の悪性形質獲得には、これらの生物学的態度も重要な貢献をしている可能性が示唆された。ついで、ヒト顎骨に発生した黒色プロゴノーマ由来細胞株も作製し、その染色体に、SMAP細胞同様、第9-第13染色体の相互転座がみられ、良性腫瘍の悪性転化の解析に重要な変化とみなされ、今後の検討方向が示された。