著者
望月 朋子 河村 美穂
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.59, 2016

<b>研究目的</b><b></b><br><br>DeCeCoによるキーコンピテンシーが世界的な注目を集め、教育現場では関連した科学的リテラシーの育成が急務の課題とされている。PISA調査(2003)では科学的リテラシーを「自然界および人間の活動によってつくり変えていった自然の変化について理解し、意思決定できるために、科学知識を駆使し、問題を見分け証拠に基づく結論を引き出すことのできるような能力」と定義している。家庭科では、教科として成立して以来、生活を科学的に理解し、科学的知識を応用しながら生活を営むことを目指してきたが、PISAが定義したこの科学的リテラシーでは、十分に生活を科学するということを説明できないと考えられる。<br><br>そこで、本研究では家庭科における科学的リテラシーを「自然界および人間の活動によって変化した自然や生活、社会状況について理解し、必要に応じて意思決定するために、文化的、社会的、自然科学的な知識を活用し、自らの生活に即して問題を見分け、証拠に基づき生活がよりよくなるような結論を導く能力」と仮に定義する。本研究は、実際の調理実習の授業において文化的、自然科学的知識を学んだ生徒が、どのようにそれらの知識を捉えているのかということを生徒の授業記録を対象として探究し、明らかにするものである。<br><br><b>研究方法</b><b></b><br><br>対象とした授業は2016年1月~2月に実施した静岡県東部公立中学校2年生2クラス84名(男子44名、女子40人)「ちらしずしを作ろう」である。本研究では、授業前(2016年1月)と授業後(2016年2月)の2回に同一の質問紙調査を実施し分析データとした。調査項目は、以下の通りである。(1)食文化に関する設問(1問):どんなときにちらしずしを食べると「おいしい」と感じるか。それはなぜですか。(2)食品科学に関する設問(2問):①さやいんげんをゆでてからざるにとって水にさらす理由について書いてください。②うす焼き卵をきれいにつくるために大事だと考えること書いてください。いずれも生徒に自由記述させ、それぞれの設問の記述についてカテゴリーを生成、分類して検討を行った。<br><br>&nbsp;<br><br><b>結果と考察</b><br><br>設問(1)の「どんなときにちらしずしを食べるとおいしく感じるか」では、授業前には、行事、ひなまつり、お祝いのときが44人で、授業後には57人であった。その理由として、「ひな祭りのときにだいたい食べるから」、「お祝いするときに食べる料理だから」等行事の時に特別に食べる記述や「親せきなど、みんなが集まったとき」といった大勢で食べる場面を想定した回答が増加していた。<br><br> 設問(2)「さやいんげんをゆでたあとに水にさらす理由」には、授業前の回答は、「色が鮮やかに、濃くなる」4人、「食感がよくなる」14人、「わからない」42人であり、授業後はそれぞれ60人、10人、4人であった。<br><br>設問(3)「うす焼き卵をきれいにつくるために大事だと考えること」についての記述を分析したところ、授業前はとき卵をなるべくうすくひくというような「うすさ」に関することが29、こがさないように気をつける「焼き加減」に関すること21、「火加減」に関することが15であった。授業後は、卵を全部ではなく、何回かにわけてやくというような「うすさ」に関すること43、こげないように注意したという「焼き加減」に関すること24、卵を焼く温度を保つという「火加減」に関すること31、であった。記述総数は調理実習後に増加していた。以上のことから、調理実習を通しても食文化について理解可能であること、調理科学についてはゆでて水にさらすと色が鮮やかになる「さやいんげん」について理解しやすいこと、一方でうすやき卵を作ることに関しては、科学的な理解よりも作る手順をより必要なものとして学ぶことがわかった。