著者
吉村 仁志 木上 昌己 矢野 宏二
出版者
東京昆蟲學會
雑誌
昆蟲 (ISSN:09155805)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.897-909, 1995-12-25
参考文献数
12

3種の素材(ムシロとビニールムシロ, ダンボール)を使用したバンドトラップを異なる環境のマツに設置し, 捕獲された害虫と天敵, クモを調査して, 慣用されている"こも巻き"法を再検討した.1)全捕獲個体の63.2%が昆虫, 34.6%がクモであった.マツ害虫と天敵はほぼ同個体数が捕獲された.前者ではマツワラジカイガラムシ, マツノホソアブラムシ, マツオオアブラムシとマツカレハが優占種で, 後者の91%はヤニサシガメであった.クモは20科43属51種が確認され, フクログモ科, エビグモ科, ハエトリグモ科が優占的であった.2)設置環境別では, 害虫と天敵, クモはともに林地など植生が比較的豊富で, 下草ないし落葉などで地表がおおわれている環境では捕獲数が少なく, 公園や施設構内など植生が貧弱で地表が落葉などでおおわれていない環境では多く捕獲された.3)害虫はダンボールで圧倒的に多く捕獲された.天敵はムシロで多く捕獲されたものの, ビニールムシロとダンボールでもかなり捕獲され, 有意差はなかった.この傾向は両昆虫群の中の主要種でも同様であった.マツカレハ幼虫はアブラムシとカイガラムシほど素材間で顕著な差はなく, ダンボール, ビニールムシロ, ムシロの順で捕獲された.クモの捕獲数は素材間で有意差はなかった.4)バンドトラップ法の効率化には, 越冬に入る前の早期設置と翌春の脱出前の早期回収が必須であり, ついで, 対象昆虫群に対応した素材の選定が要請される.