著者
木下 寛子
出版者
日本質的心理学会
雑誌
質的心理学研究 (ISSN:24357065)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.191-210, 2017 (Released:2020-12-09)

本論は,「雰囲気を問う道筋」を問い直すことを趣旨とする。先行研究の概観を通して,雰囲気は問いの対象となった時,概して客体化されてその性格が損なわれてしまうことが明らかになった。そのため本論では,対象化せずに雰囲気を問う道筋を求めた。具体的には,ある小学校への参与において,雰囲気が言葉になり問われてきた経験に従い,問う行為を遂行することを通じて雰囲気を理解すること(解釈)が試みられた。この道筋は,対象として認識するための方法とは次の2 点の特徴において峻別される。第一に,雰囲気の解釈は,雰囲気がそれ自体のほうから見えるようにする行為として展開され,それは「雰囲気の解釈学的現象学」と呼びうるものとなった。第二に,その基礎となった小学校への参与は,参与者自らの在り方を予め規定することなく,その時々の出会いに応じて行為しつつそこにいることとして展開され,「出会いの解釈学」と呼びうるものとなった。この方法を通して,雰囲気の根本性格が,環境の総合的で静的な質としてあるのではなく,その時々の出会いの在り方を丸ごと開き直す,開顕性の性格にあることを示した。