著者
飯島 正 関 洋平 柳原 正秀 木下 知貴 原田 賢一
雑誌
全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.51, pp.65-66, 1995-09-20

範疇文法(Categorial Grammar)[1]と単一化文法(Unification Grammar)[2]は,いずれも計算的な文法記述として極めて興味深い枠組みである.計算的側面から眺めた場合,互いに相補的な役割を果たしていながら,共通して項書き換え(term rewriting)に基づく計算モデルを持っており並列化の可能性も高いといった特徴を有している.そこでそうした関係を踏まえ,両文法記述を融合する試みが従来よりなされている.本報告では,そのためのアプローチとして,CUG[3]で与えられているような複合範疇に対応する素性構造を(高階)関数の定義とみなして,それを直接計算する素朴なモデルを提案する.範疇文法は,構文的な構造規則を範疇と呼ばれる単語単位の要素(ほぼ,いわゆる品詞に対応)に分解し,辞書中の各語彙記述に埋め込むものである.このとき,範疇として,原子的な基本範疇だけでなく,(型付き)関数定義に似た表記をつかって基本範疇から組み合わせてつくる複合範疇の表記法を与えることにより,構造的な表現を部分的に与えることを可能にしている.それにより,範疇文法では,ボトムアップに範疇の列の項書換えを行っていくことで文の構文的な解析ができる.一方,単一化文法形式は,構文規則を論理式として表現する論理文法の枠組みに,単一化操作を定義したレコード表現(「属性名ラベル+属性値」対のリスト)である素性構造を取り入れたものである.その素性構造をつかって各単語のもつ性質を,同じ構文規則に現れる他の語の性質と制約として結び付けることにより,構文解析と同時に制約に基づく意味解析を行うことができる.ここでも,構文解析は,構文規則の項書換えとして行うことができる.この両者を融合する研究アプローチの一つにCUG(Categorial Unification Grammar)[3]がある.CUGにおける両者の融合は,単一化文法の枠組みの中に範疇文法をコーディングして埋め込むことで行われている.例えば,関数子を用いて基本範疇から作られる複合範疇は,その関数に対応する素性構造に変換されて,単一化文法の枠組に取り入れられる.しかし,この対応づけだけでは,単一化操作によって,意味制約を伴った構文構造を作り上げることはできても,範疇文法の特徴的な関数的な項書換えの動作を規定してはいない.本報告では,範疇文法と単一化文法を融合するという共通の目的のもとで,むしろ逆に範疇文法の枠組の中に素性構造とその単一化操作を埋め込むことを試みる.そこで原子的な基本範疇に素性構造を割り当てておき,それに加えて素性構造を対象とした単一化に基づく関数結合演算を与えることで,複合範疇のための素性構造を組み立てていく方法を与える.同演算には複合範疇に固有の素性を追加的に与えることができる.これによって,従来よりもより範疇文法の考え方に適した形で,単一化文法形式(意味情報の制約記述)を取り入れることができる.以下では,2章で範疇文法を概説し,3章で単一化文法の紹介とCUGにおける両文法記述の融合方法について解説した後,4章で本報告のアプローチを簡潔に紹介する.