著者
木下 高徳
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学紀要 (ISSN:03899543)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.A15-A32, 1996-03-15

文学作品の理想を氷山に譬え、海面上に浮上する八分の一だけを描いて他の八分の七は海面下 (行間) に沈めてしまうというように、究極まで言葉を削り、作品を磨いたヘミングウェイは、シンボリズムの手法にハードボイルドのスタイルを乗じた方法でこれを可能にした。The End of Something においては、たとえば、パーチ (小さな虹) を餌にして虹マス (大きな虹) を釣るという場面設定をしているが、これは主人公の男女が共に小さな希望を犠牲にして大きな希望を手に入れようとしている過程を描いていることになる。こういう視点で、この作品を裁断すると、これは、若い主人公であるニックが、<自分の人生を生きる価値あらしめるもの> との期待をもってマージョリーとの恋にすべてを賭けて打ち込んだのだが、恋は理想的な形で進展したにもかかわらず、いくつかの要因で醒めてしまい、恋が期待したものではないと覚って、絶望に陥る、という体験を描いている作品だということになる。